Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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cover

2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 胸部
シンポジウム 胸部1呼吸器領域の超音波

(S428)

呼吸器超音波の概要−その発展と現況−

The essentials and overview in chest ultrasonography

小林 英夫

Hideo KOBAYASHI

防衛医科大学呼吸器内科

Department of Respiratory Medicine, National Defense Medical College

キーワード :

空気で満たされた肺を超音波で観察することは困難なので呼吸器領域への超音波導入の有益性は乏しい,と認識されていた時代にあって,本邦では1970年代後半から名取・吉良らを中心に,呼吸器領域の超音波診断の検討が開始された.大きな発想の転換であり,この後,呼吸器臨床に欠かせない超音波学的知見が確立し,まさにvisual stethosopeとして日々活用されるツールになった.対象疾患・病態は,胸壁,胸膜,胸腔,横隔膜,肺内病変,縦隔,心血管系,頸部に及ぶ.なかでも最も頻繁に活用されているのは胸水検出と胸水穿刺であろう.胸水検出力の高さとその簡便性から呼吸器科以外の領域にも普及している.
超音波検査に,簡便で,リアルタイム表示が可能で,放射線被曝がなく,ベッドサイドで実施可能という利点があるのは衆知の通りである.加えて臓側胸膜と壁側胸膜を分別できる能力は他の画像診断では困難であり,この特徴は肺内病変と肺外病変の識別,肺癌の胸膜浸潤評価,などに活用されている.リアルタイム表示の特性は,超音波ガイド下生検を安全確実に実施し,横隔膜や下大静脈の呼吸性変動の把握を可能とし,換気・循環の把握に導入されてきた.そしてこれまでの研究成績は診断基準としてまとめられ,「肺癌胸膜浸潤診断基準」と「縦隔腫瘍エコーパターン」の二者が学会から公示されている.
経胸壁的観察に加え,体腔内超音波とりわけ気管支内超音波(EBUS, endobronchial ultrasonography)が近年大きな普及を遂げてきた.1980年代に経食道の超音波内視鏡(EUS, endoscopic ultrasonography)が縦隔の観察に導入され,当時のCTより詳細な情報入手を可能としていた.しかしCTの進歩により呼吸器臨床での使用は減少し,また初期の経気管的超音波内視鏡はファイバー径が太く侵襲性に難点があった.機器の進歩は当初10mmだったEBUS外径を6.9mmへと改善し,これにより本邦発EBUSが全世界へと普及している.
呼吸器超音波が実地臨床に不可欠なツールとなった一方,21世紀に入り,呼吸器超音波学にも大きな転換が生じている.これまで本邦では呼吸器科医が主に関与してきた分野に,欧米の救急治療医らが新たな利用法を展開している.欧米では,聴診器よりも超音波検査を救急診療の第一番目の検査として位置づけようという先鋭的主張さえも登場してきた.(http://www.cbsnews.com/videos/handheld-ultrasound-may-replace-the-stethoscope/).本邦でも見習うべき点がある一方で,新たな問題点も浮上している.従来本邦で使用されてきた超音波所見用語とは全く異なる英語所見用語が国際的に普及していることある.ILC-LUS(International Liaison Committee on Lung Ultrasound)によるrecommendationではA-line,B-line,bat sign,などの表現がすでに標準化されている.我が国ではいまだ一般化していないが,今後の情報発信では共通用語を意識した記載方式の導入も,国際的に適合するためには視野に入れる必要がある.
本プログラムが,呼吸器超音波学を鳥瞰し新たな問題点を浮き彫りにし,「和」のなせる業(日本呼吸器学会)のさらなる展開に寄与することを願ってやまない.
なお,これまでの発展の経緯は,名取により日本超音波医学会50周年記念誌(日本超音波医学会編,2013)に掲載されている.