Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 腎泌尿器
シンポジウム 腎泌尿器1腎癌の診療における超音波の位置づけ

(S404)

FDG PET/CTを用いた進行性腎がん治療体系の確立の試み

FDG PET/CT as imaging biomarker for advanced renal cell carcinoma

中井川 昇

Noboru NAKAIGAWA

横浜市立大学泌尿器科

Department of Urology, Yokohama City University Graduate School of Medicine

キーワード :

2008年に腎がんに対する分子標的治療薬が本邦において初めて承認され,現在は血管新生阻害を目的とする3種類のチロシンキナーゼ阻害剤(ソラフェニブ,スニチニブ,アキシチニブ)と,mTOR蛋白と呼ばれる代謝,増殖といった様々な細胞の活動を制御す蛋白の活性を阻害することを目的とする2種類のmTOR阻害剤(エベロリムス,てムスロリムス)が使用可能となり,進行性腎がんの治療は大きな転換期を迎えた.これら分子標的薬は癌の生存・進行において重要な働きをしている情報伝達系を阻害することで癌の生物学的活性を抑え,癌の進行を制御している.実際に,分子標的薬を投与しても腫瘍サイズに著明な縮小は認めないが,長期間にわたって腫瘍の増大や新規病変の出現を認めず進行が抑えられた症例を経験したことがあると思われるが,このような症例では分子標的薬によって腎癌の生物学的活性が抑えられていたと考えられる.すなわち,従来の抗癌剤は癌細胞を死滅させることが主作用であるため,薬の投与によって癌細胞が死ぬことによって生じる腫瘍ボリュームの減少がそのまま抗腫瘍効果を示していたのに対し,直接的な殺細胞効果をもたない分子標的治療薬の抗腫瘍効果は腫瘍のボリュームの変化だけでは評価は困難であり,分子標的時代においては腎がんの生物学的活性を客観的に評価するバイオマーカーを確立する必要がある.
FDG PET/CTは組織の生物学的活性の指標の一つであるブドウ糖の取り込みを類似体であるフルオロデオキシグルコース(FDG)の集積を用いて可視化する画像診断法であり,現在臨床の現場で最も普及している低侵襲に行える癌の生物学的活性の測定法と言える.そこで,我々はFDGの集積を定量化する指標であるStandardized Uptake Value(SUV)に注目し,FDG PET/CTによる診断に基づいた進行性腎がんの治療体系の確立を目的とした臨床研究を2008年より行ってきた.その結果,(1)FDG PET/CTによって進行性腎がん病変の評価が可能であること(2)治療開始前にFDG PET/CTを施行して得られるSUVによって個々の症例の生命予後の予測が可能であること(3)チロシンキナーゼ阻害剤を用いた治療の際に治療開始前,開始後1か月目にFDG PET/CTを施行しSUVの変化率を測定することによって個々の症例の無増悪生存期間が予測できること(4)チロシンキナーゼ阻害剤治療中のSUV再上昇が腎がんのチロシンキナーゼ阻害剤に対する抵抗性の獲得を表している可能性があること(5)FDG PET/CTによってmTOR阻害剤の効果予測,評価できる可能性があることを明らかにしてきた.
分子標的治療薬が治療の中心となった現在,FDG PET/CTを腎がんの生物学的活性を評価するイメージング・バイオマーカーと考え質的評価を加えることより個々の進行性腎癌症例に応じた適切な治療選択が可能となり予後の改善に繋がると考えている.
本シンポジウムでは当施設の経験を踏まえその有用性を報告するとともに,FDG PET/CTによる腎がん診断の普及を目指して行っている活動を紹介する.