Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 甲状腺・副甲状腺
シンポジウム 甲状腺・副甲状腺1小児甲状腺結節の超音波診断

(S353)

マーシャル諸島における超音波を用いた甲状腺検診

The Thyroid examination using ultrasound in the Marshall Islands

中島 範昭, 藤盛 啓成, 高橋 淑郎, 佐藤 真実, 大内 憲明

Noriaki NAKASHIMA, Keisei FUJIMORI, Yoshio TAKAHASHI, Mami SATO, Noriaki OUCHI

東北大学病院乳腺内分泌外科

Department of Breast and Endocrine Surgery, Tohoku University Hospital

キーワード :

マーシャル諸島共和国は,太平洋の真ん中,北緯4-14度,東経160-173度,約180km2に点在する,29の環礁と5つの島からなる人口約5万人の島国である.戦前,日本の統治下にあったが,第2次世界大戦後アメリカ合衆国の信託統治領となった.合衆国は1946年から1958年の間にBikini環礁およびEnewetak環礁において,66回もの様々な規模での核実験を行った.中でも,1954年3月1日に行われた水爆実験,BRAVO testは最大規模であり,多量の放射性降下物は様々な程度でマーシャル諸島の島々に降り,住民に深刻な被曝障害を与えた.Bikini環礁より近隣のRongelap(67人), Ailinginae(19人), Utrik(167人)の3環礁の住民は多量の放射性降下物により多大な被害を受け,被曝グループとして島より避難させられ,合衆国により厳重なフォローがなされた.被曝後長期間を経て最も問題になったのが甲状腺癌の発生を含む甲状腺の障害であった.しかし,合衆国による厳重なフォローアップがなされている高度な被曝を受けた3つの環礁以外の島々に対しては,被曝の影響はないとされ調べられていなかった.そこで,我々は,甲状腺結節性病変の頻度が過去の核実験と関係があるのかを証明するため,ロンドン大学放射線生物学科のTrott教授とともに1993年から1997年にかけて甲状腺検診を行った.
7172名のマーシャル諸島住民に対し,触診および超音波を用いた甲状腺検診を行い,触知可能な甲状腺結節に対しては穿刺細胞診が行われた.使用した超音波機器は,ALOKA SD-121TM, 7.5 MHz sector transducer.検診の結果をまとめると,以下の通りである.①21%の住民で甲状腺結節性病変が発見された.②良性結節の有病率は年齢とともに増加した.③甲状腺結節例の約半数は,触診で診断できたが,残りの半数は超音波によってのみ診断し得た.④甲状腺癌の有病率は1.2%と高く,年齢とともに高くなったが,若い住民にも多く見られた.⑤甲状腺癌の有病率と推定甲状腺放射線被曝量には関連があることが示唆された.しかしながら,この関連は,実験によって高線量被曝したUtrik環礁を除外して,過去に被曝しなかったと仮定されてきた環礁だけで解析すると明確でなくなった.
1993年より行われた調査より約10年経過した,2006年にもマーシャル諸島において甲状腺検診を行う機会を得,同様に超音波を用いた甲状腺検診を行った.1cm以上の結節性病変に対しては穿刺細胞診を行った.1386名に超音波検査,1150名に甲状腺機能検査,1272名に病中ヨード測定を行った.超音波機器はSonosite180,5-10MHz Linear transducer.結果は以下の通りである.①超音波で発見される甲状腺結節性病変の有病率は42.4%と高率であった.②甲状腺機能異常は稀であった.③甲状腺癌は1.1%に認められたが,Bravo test以降に生まれた若年者にも多く認められた.④前回検診との比較では,10数年の期間をおいて40%以上の甲状腺結節は消失また縮小していた.④尿中ヨード測定の結果からは,マーシャル諸島では軽度ヨード欠乏の状態であった.⑤被曝との関係を明らかにすることはできなかった.
10年の間で超音波機器の性能に格段の差があり,これら検診の結果を単純に比較することは難しい.また,被曝との関係を証明することは,被曝線量の推定の困難さなどから極めて難しいと考えられる.
今回,我々は,マーシャル諸島での甲状腺検診の経験を踏まえ,甲状腺超音波を用いた検診の有用性を報告する.