Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 産婦人科
シンポジウム 産婦人科3婦人科疾患の診断精度を向上させよう! −超音波検査法の利点を生かした活用術−

(S336)

婦人科領域における超音波ドプラ法の意義

Significance of the Doppler ultrasonography in gynecologic fields

梅津 朋和

Tomokazu UMEZU

名古屋大学産婦人科

Obstetrics and Gynecology, Nagoya University

キーワード :

卵巣腫瘍の術前良悪性診断は手術法の決定において非常に重要である.良性であれば腹腔鏡治療が候補となるが,悪性であれば術中操作での被膜破綻を防ぐためにも開腹術で行われるのが一般的である.
卵巣腫瘍の画像診断には超音波検査,MRI,CT検査等がある.超音波検査は簡便,安全,安価であるため最も日常的に行われている画像診断法であるが,再現性に乏しい点などから卵巣腫瘍の術前良悪性診断にはMRI,CT検査が重要視される傾向がある.しかし,MRI,CT検査は高価なこと,体内異物による検査不可能症例の存在,被爆といった問題も含んでいる.そのため,超音波装置,技術の進歩,工夫によって卵巣腫瘍の術前良悪性診断率の向上が試みられている.
一般に悪性腫瘍では血管新生によって局所の血流が豊富になるため,腫瘍内の血流評価は卵巣腫瘍の術前良悪性診断において重要となる.そのため腫瘍内の血流評価のためドプラ法を用いた研究が行われてきた.悪性腫瘍では血管新生が顕著なことから,末梢血管抵抗の低下に伴いresistance index(RI)が低値になると言われていた.Kurjakらは,RI<0.42以下であればほぼ悪性と報告しているが,その後数値のオーバーラップが指摘された.また腫瘍内の血流速度に着目した検討も行われた.収縮期最高血流速度PSV(peak systolic velocity)の上昇が重要との報告もある.しかしドプラ信号の検出感度の安定性や精度には不安定要因があり,計測値の信頼性には多少問題があることは否定できない.
経静脈超音波造影剤レボビストは我が国では1999年に発売されたが,シェルのない空気の微小気泡であるため持続時間が短いという欠点があった.2007年に難溶性のガス(ペルフルブタン)を用い,リン脂質のシェルを持った第2世代超音波造影剤ソナゾイドが登場することで造影効果時間の延長が可能となった.現在では肝臓や乳腺領域での診断のために広く利用されている.また消化器や泌尿器科領域での研究報告も認められるが,産婦人科領域での報告はいまだ少ない.そこで我々は,卵巣腫瘍患者でソナゾイドを用いた血流評価で良悪性診断を行い,従来のドプラ法による血流評価での良悪性診断と比較検討を行った.
【方法】
2010年1月から12月の間,当院で手術された25人の卵巣腫瘍(良性6例,悪性19例)患者を対象とした.ソナゾイドの使用に当たっては当院倫理委員会の承認を得て,全ての症例でインフォームドコンセントを行い,文書での同意を得た.通常のドプラ法を行った後,ソナゾイドを経静脈投与し,血流評価を行った.血流を認める症例を陽性とし,感度,特異度を算出し,通常のドプラ法と比較検討した.
【結果】
カラードプラ法では偽陰性例を9例含み,感度53%,特異度100%,パワードプラ法では偽陰性例を5例含み,感度は74%,特異度は83%であったのに対し,ソナゾイドを用いた超音波造影法では偽陰性例は1例で感度は95%,特異度は83%であった.またソナゾイド投与症例全てで副作用を認めなかった.
この結果からソナゾイドを用いた卵巣腫瘍の術前良悪性診断の有用性は示唆されたが,観察者の主観性が入ってしまい,再現性の問題は依然残ってしまっている.近年ではPeak intensityやwash-out timeに着目した定量化の検討も行われている.
更なる検討は必要ではあるが,超音波造影剤を用いた卵巣腫瘍の良悪性診断は超音波検査の長所である簡便性,低負担を維持しながら診断率の向上が期待できるものと思われる.