Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 産婦人科
シンポジウム 産婦人科1出生前遺伝学的検査と超音波検査

(S328)

出生前遺伝学的検査の現在

Current status of prenatal genetic testings

関沢 明彦

Akihiko SEKIZAWA

昭和大学医学部産婦人科学講座

Department of Obstetrics and Gynecology

キーワード :

近年,出産の高年齢化が著しいスピードで進んでいる.35歳以上の分娩は全分娩の25%を占め,40歳以上の分娩も年間3万5千件を超えている.当然,ダウン症候群をはじめとする染色体疾患を心配し,出生前診断を希望する妊婦数も増加している.国内での羊水検査などの確定検査実施数(2012年)は22,000件(推定),母体血清マーカー検査は20,000件(推定)で増加傾向にあるが,超音波マーカー検査の実態は分かっていない.また,近年,羊水・絨毛検査で採取された胎児組織を用いたマイクロアレイ解析も臨床応用されるようになった.この検査の対象は,超音波検査で胎児の形態異常を指摘された場合が主であると考えられるが,超音波検査での胎児形態異常スクリーニングの普及や精度の向上に伴って,マイクロアレイ検査の実施数は増加することが予想される.
しかしながら,諸外国に比較すると我が国の出生前遺伝学的検査の実施率は極めて低い状況にある.これに影響しているのが1999年厚生科学審議会先端医療技術評価部会の「医師は妊婦に対して母体血清マーカー検査の情報を積極的に知らせる必要はなく,本検査を勧めるべきではない」との見解である.この見解が出されて以降,産婦人科医の間でもこの問題についての議論が行われない状況が持続していた.そのような状況の中,2011年10月にNIPTが臨床検査として米国で開始され,国内への導入は不可避になってきた.しかし,国内では,遺伝カウンセリング体制の整備が遅れており,また,出生前診断についての議論が未成熟で,NIPTを受け入れる社会的なコンセンサスは形成されていない状況にあった.そのような中で本検査が導入された場合,NIPTが極めて画期的な検査であるため,検査希望者の激増により,自律的な受検の判断が難しくなる,不十分な知識で受検して,結果に混乱する妊婦が多数出現するなど,社会的な混乱の原因になると考えられた.そこで,適切に遺伝カウンセリングできる施設で検査を臨床研究として開始し,社会的な評価や反応を確認しながら,次のステップとして適切な検査・遺伝カウンセリング体制についてのコンセンサス形成を模索する目的でNIPTコンソーシアムを2012年8月に組織し,臨床研究としてこの検査を国内に導入することになった.
臨床研究は2013年4月に開始され,1年以上が経過し,8,000件程度の検査が実際に行われる.この検査は,妊娠10週から無侵襲に行え,染色体異常症の検出率が高い.非確定的検査ではあるが,陰性的中率が極めて高く,羊水検査について悩んでいる妊婦にとっては信頼性の高い検査である.実際に,検査で陽性と出た確率は1.9%であり,98.1%の妊婦で,羊水検査が回避でき,羊水検査に伴う流産リスクが回避できていることになる.
一方,この技術は,マイクロアレイで診断されるレベルの染色体微小欠失症候群や広範囲な単一遺伝子病の診断にも利用可能な画期的な手法であるばかりか,胎児の全ゲノムの解読すら可能であるという.米国では既に性染色体の数的異常の診断や22q11微小欠失症候群などの微小欠失に対する検査が臨床応用されており,検査対象はどんどん拡大することが予想される.この検査がどのような遺伝カウンセリング体制の下,臨床で利用されていくべきか,また,将来,どのような対象に,どのような内容まで許容されるべきかなど,今後,議論を深めていく必要がある.