Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 消化器
シンポジウム 消化器1見逃してはいけない消化器疾患の超音波所見

(S296)

急性胆嚢炎におけるButterfly signとstraw phenomenonの臨床的意義と読影上の注意点

Butterfly sign & straw phenomenon in patients with acute cholecystitis

石田 秀明1, 小松田 智也1, 渡部 多佳子2, 宮内 孝治3, 長沼 裕子4, 大山 葉子5, 長井 裕6

Hideaki ISHIDA1, Tomoya KOMATSUDA1, Takako WATANABE2, Takaharu MIYAUCHI3, Hiroko NAGANUMA4, Yoko OHYAMA5, Hiroshi NAGAI6

1秋田赤十字病院消化器科, 2秋田赤十字病院臨床検査科, 3秋田赤十字病院放射線科, 4市立横手病院消化器科, 5秋田組合総合病院臨床検査科, 6NGI研究所

1Department of Gastroenterology, Akita Red Cross Hospital, 2Department of Medical Laboratory, Akita Red Cross Hospital, 3Department of Radiology, Akita Red Cross Hospital, 4Department of Gastroenterology, Yokote Municipal Hospital, 5Department of Medical Laboratory, Akita Kumiai General Hospital, 6New Generation Imaging Laboratory

キーワード :

Butterfly signはFrancis Weilが1983年に提示した少量の腹水所見で,羽をたたんだ蝶を横から見ているような像を呈することから命名された.これは知名度は低いが超音波診断上興味が尽きないサインである.なぜなら音響学的にa)腹水は反射散乱が無く“無エコー”であること,b)周囲組織-腹水間の音響インピーダンス差が大きく腹水の輪郭が明瞭になること,など超音波の特性を熟知したサインだからである.一方,我々は,胆嚢底部周囲の少量貯留液-胆嚢内腔間を移動する胆汁がカラードプラで明瞭に表示されることも既に報告してきた(この現象を便宜上straw phenomenonと呼ぶ).これらの所見が急性胆嚢炎の診断における意義を再検討したので考察を加え報告する.更に,少量の腹水の拾い上げに関する問題点に関しても検討を加え,合わせ報告する.使用超音波装置:東芝社製:AplioXG,500,日立アロカ社製Preirus,GE社製:LogiqE9.
検討1)最近経験した急性胆嚢炎50例を,その後の経過や手術所見から,(a)軽症例(32例)と重症例(18例)に大別し,両群の腹水の有無を検討したところ,軽症例(0/32),重症例(8/18)と重症例に腹水がみられ,その局在は頚部周囲(7/8)底部周囲(1/8)であった.腹水量はいずれも少量で胆嚢頚部周囲のものは全例,いわゆるButterfly signの所見を呈していた.なお,重症例では2/18に少量の右胸水がみられた.
検討2)胆嚢底部穿孔12例では,その3例で胆嚢底部周囲の少量貯留液-胆嚢内腔間を移動する胆汁がカラードプラで明瞭に表示され胆嚢穿孔の診断確定に有用であった.
検討3:胆嚢炎でButterfly sign(+)の6例に関し,3DUSで観察すると,プローブの圧迫で,A planeでBS(-)となった瞬間5/6例でC planeで,横方向にBS(+)となった.そのBSの形状に関しては圧迫前のA planeと圧迫後のC planeの像はほぼ一致しhorizontal BSと呼べる結果であった.
【まとめと考察】
急性胆嚢炎例に関する少量の腹水の拾い上げの意義を検討した結果,腹水の有無は胆嚢炎の重症化診断に有用である事が分かった.急性胆嚢炎は日常的な疾患で,“少量の腹水”が見られた場合は重症化を念頭に対処すべきである.その意味でButterfly signはしっかり記憶しておくべき超音波所見であり,また個々の組織の超音波上の特性全般を再考する素材にもなると思われる.しかし,同時に,検討3で示されたように,このサインはプローブによる過度の圧迫で消失(横に流れて見えなくなる)することも分かりプローブコントロールを平素から十分に習熟していないと見逃すサインである事も理解でき,超音波検査の基盤であるプローブコントロールの重要性が再認識された.一方straw phenomenonは胆嚢炎例でその診断に苦慮する底部穿孔の診断に有用である.これは超音波の散乱源となる感染胆汁が細い穿孔部を移動する際の所見と考えられている.これも胆嚢炎例の重症化診断の一助になると思われ常に記憶すべきである.同時に,この血管外のドプラ所見の成り立ちに関し検討することはドプラ検査能が向上すると思われた.現在超音波診断の8-9割は超音波検査士が行っており,造影超音波検査は施設により必ずしも直ぐに施行できない状況だが,Bモード検査やドプラ検査の所見は技師でもすぐに確認可能であり,超音波検査士の教育的意味でもこの所見は重要な意味を持つと思われた.