Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 循環器
シンポジウム 循環器4成人の先天性心疾患

(S290)

心臓の左右を決定して複雑心奇形を診断する

Determine the left and right sides of the heart for diagnose congenital complex heart disease

富松 宏文

Hirofumi TOMIMATSU

東京女子医科大学循環器小児科

Pediatric Cardiology, Tokyo Women’s Medical University

キーワード :

人間の体は決して左右対称にはできていない.心臓においてもその位置は通常正中になく左側に向いて位置し,決して左右対称ではない.また,右胸心のように胸腔内での心臓の位置が左右逆になっているものや,心尖部が中央に位置し正中心と呼ばれるものもある.これら位置異常があるときには心奇形を伴っていることが多々ある.また,同時に心臓以外の胸部,腹部の左右関係も異常であることが多い.
複雑心奇形は決して“複雑”ではなく,発生の過程で何らかの過誤があった時にいくつかの異常が組み合わさって出来上がったものである(複合心疾患).したがって一見“複雑”に見える心疾患でも,区分診断法を用いて順序よく診断をおこなえば,その基本構築は容易に診断が可能となる.そこで重要になるのは心臓の各要素の左右関係である.
発生の過程で胚ができると前後,背腹,左右の3つの軸が形成される.この中で,左右軸は最後に決定されることが知られている.この左右軸の決定には細胞表面の繊毛の動きが細胞外液の一定方向への流れを作ることが大きく関与しているとされている.この左右非対称を決定する決定の過程でいくつかの遺伝子が関与していることが明らかになってきている.その結果,心筒のループ形成の方向が決まり,最終的には心臓の構造物の左右の形態的特徴を形作ることになる.この左右非対称が正常に発現しなければ,内臓錯位や単心室など重篤な心疾患が現れる.胸腹部臓器が正常な左右非対称にならない時に心房内臓錯位症候群(heterotaxy syndrome)と呼び,心房内臓位(viscroatrial situs)は不定位(ambiguus)という.いわゆる,①多脾症候群,②無脾症候群が含まれる.ここで①多脾症候群:脾臓が単一でなく,いくつかに分葉していたり,副脾が複数存在することなどから命名されている.また,本症候群は左側相同(left isomerism)とも呼ばれ,両側二分葉肺などの特徴があり,多くは下大静脈が欠損し,奇静脈結合や半奇静脈結合などとなり,左右心耳はともに左心耳形態を示すことが多い.②無脾症候群:脾臓が存在しないことから命名されている.右側相同(right isomerism)とも呼ばれ,下大静脈は存在するが心房中隔はほとんど形成されず,単心房となるため左右の同定が不能となる.左右心耳は右心耳形態を示す.
区分診断法では,心臓を構築する各要素(心房,心室,大血管)をその形態的特徴から同定し,その左右関係を診断する(位置診断).その後を血液の流れにしたがってそれぞれの要素のつながり方を診断する(関係診断).
しかし,区分診断法だけでその心臓のすべてを表すことはできず,あくまでも基本構築を診断するにとどまる.したがって,区分診断法で基本構築を診断したうえで欠損孔,房室弁形態,半月弁形態,およびそれぞれの弁の狭窄や逆流などをそれぞれ診断しなければ最終的な診断には至らない.
心エコーでは各要素の持つ三次元的な特徴を二次元画像で示すには限界があるが,それぞれの解剖学的特徴や発生学的原則を把握することにより各要素の診断はほぼ可能である.
本発表では区分診断法の実際の手順について症例を提示しながら解説したい.