Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 領域横断
シンポジウム 領域横断6超音波とDDS

(S235)

超音波遺伝子導入に影響する要因 -in vitroでの検討-

Factors affecting efficiency of ultrasound-mediated transfection -in vitro study-

小川 良平1, 渡部 明彦2, 森井 章裕2, フェリル ロリト3, 近藤 隆1

Ryohei OGAWA1, Akihiko WATANABE2, Akihiro MORII2, Loreto FERIL3, Takashi KONDO1

1富山大学大学院医学薬学研究部・放射線基礎医学講座, 2富山大学大学院医学薬学研究部・腎泌尿器科学講座, 3福岡大学医学部解剖学教室

1Department of Radiological Sciences, Graduate School of Medicine and Pharmaceutical Sciences, University of Toyama, 2Department of Urology, Graduate School of Medicine and Pharmaceutical Sciences, University of Toyama, 3Department of Anatomy, School of Medicine, Fukuoka University

キーワード :

【目的】
超音波による遺伝子導入に影響する要因としては,音響学的な条件として,超音波の照射強度,周波数,連続波であるかパルス波であるかといった特性が挙げられる.一方,音響学的以外の条件としては,照射される側の状態,例えば,細胞の濃度,細胞の状態(接着,浮遊など),細胞膜の状態,照射される環境(温度,溶存ガス,マイクロバブルの有無など)などが挙げられる.1 MHzの低強度超音波を利用した遺伝子導入を行なう場合,どのような条件が超音波遺伝子導入に影響するかを探る.
【方法】
それぞれ異なる照射装置,条件により1 MHzの超音波の照射を行なった.パルス回数の検討では,0.63 W/cm2(ISATA),50%DF,0.5 Hzのパルス繰り返し周波数で0〜15回のパルス照射を行なった.パルスの繰り返し周波数の検討では,0.3 W/cm2(ISATA)の強度の超音波を連続波で15秒間,あるいは,0.5〜100 Hzのパルス繰り返し周波数(50%DF)で30秒間照射した.溶存ガスによる影響についての検討では,オートクレイブで脱気した培地に,アルゴン,窒素,亜酸化窒素,ネオン,ヘリウムなどを溶存させた後,けん濁した細胞に,連続波で,2.3〜6.8 W/cm2(ISATA)で20秒間照射した.細胞膜の状態の影響については,培地にけん濁した細胞にレボビスト(10 mg/ml)を添加し,温熱(42-44℃),局所麻酔剤(1 mMリドカイン)処理後に,連続波の超音波を3.6 W/cm2(ISATA)で20秒間照射した.マイクロバブルの比較検討については,0.7 W/cm2(ISATA),10%DF(100 Hz)の超音波をレボビスト,YM454,MRX-815H存在下で照射した.
【結果と考察】
パルス回数の検討においては,設定した照射条件下では,10回のパルス照射が遺伝子導入に最適であった.照射後の生存率も高く,パルス間の超音波照射のない時間に細胞膜の修復が促進されるためであると考えられた.最適の条件下では,多くの細胞で電気穿孔法やリポソームを使用した方法よりも高い効率を示した.パルスの繰り返し周波数の検討に関しては,低いパルス周波数で高い遺伝子導入効率が認められたが,細胞の損傷も大きかった.一方,定常波が優位となる高いパルス周波数でも,効率は低いが,遺伝子導入が認められた.この場合,細胞の損傷が非常に少なく,他の方法を組み合わせることで,損傷を低く抑えたままでの遺伝子導入を実現できる可能性もある.溶存ガスについては,キャビテーションの形成や修飾を促すが,遺伝子導入および細胞死もそれに合わせて変化した.超音波遺伝子導入がキャビテーションに大きく影響を受けることが示された.細胞膜の状態を修飾する局所麻酔剤や42-44℃の温熱状態により遺伝子導入効率が上がる.これらの処理により,細胞膜の流動性が向上し,細胞膜の修復効率もこれに合わせて上昇することで,遺伝子を取り込んだ細胞の細胞死が抑制されるためと考えられた.マイクロバブルはキャビテーションの核になりうるため,使用により遺伝子導入効率は高くなる.3種類のバブルの比較では,脂質殻でガスを封入したタイプのマイクロバブルが遺伝子導入に向いていることが示された.
【結論】
超音波による遺伝子や高分子の導入は,多くの要因に影響を受ける.そのため,一般的に最適である条件の決定は,非常に困難であると思われる.一つ一つの条件について広い範囲で検討し,その超音波による遺伝子,高分子導入に対する影響を理解することが,実際の治療応用への貢献に繋がると思われる.