Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

共同企画6
光超音波画像研究会・基礎技術研究会共同企画超音波マルチモダリティ技術の最新動向

(S205)

超音波によって誘起される骨の電磁応答

Electromagnetic response induced by ultrasonic waves in bones

生嶋 健司

Kenji IKUSHIMA

東京農工大学大学院工学研究院

Department of Applied Physics, Tokyo University of A&T

キーワード :

超音波の利点のひとつである生体深部への伝播性を使って,超音波計測は広く医療検査に利用されている.しかしながら,多くの検査は,質量密度分布や弾性率に起因した音波特性を分析しているため,体内の幾何学的または力学的情報を画像化する診断に留まっている.音波は生体深部に特定周波数の応力変調を加えるツールであるという視点をもつと,従来技術とは異なる新たな利用方法が見出されるだろう.我々はこれまで,超音波の応力変調により誘起される電磁応答を検出し,測定対象物の電気的,あるいは磁気的特性をプローブする技術を開発してきた.
弾性波である音波は,電磁波のように直接的に電気・磁気特性と結合しない.しかしながら,音波により与えられた応力変調は,固体の格子歪みや液体の密度変化を通してしばしば対象物の電荷や磁気モーメントに時間変調を与えることができる.このことは,超音波照射により,双極子放射を通して超音波と同一周波数の電磁波(通常RF波−マイクロ波)が発生し得ることを意味する.ここでは,超音波によって誘起される電磁応答を音響刺激電磁応答(Acoustically Stimulated ElectroMagnetic(ASEM)response)と呼ぶことにする.これまで,圧電や磁歪効果を通して誘電体GaAsやフェライト磁石のみならず,骨や植物などの生体組織,プラスチック材料,ステンレス・鉄鋼材など,多くの物質からASEM応答が検出されている[1,2].
ASEM法は,超音波照射により発生する電磁波を検出することにより,物体の電気・磁気特性を非侵襲に計測する手法である.本測定方法で重要な点は,超音波振動子からの電磁ノイズと測定対象物からの目的信号を区別することである.超音波パルス法(時間領域測定法)を用いる場合,音波遅延時間を利用して,電磁ノイズと目的信号を時間的に分離する.このパルスASEM法を用いて,これまで骨や植物繊維,プラスチックや磁性体など様々な物質においてASEM応答が調べられてきた.さらに,最近では,連続超音波に振幅変調を加えることにより,周波数領域測定として目的信号を超音波振動子からの電磁ノイズと分離することに成功している.この連続超音波を用いるAM変調-ASEM法は,上記のパルスASEM法よりも約170倍の感度をもち,圧倒的な測定時間短縮をもたらし,実用化への展望が見えてきた.
骨の圧電効果は半世紀前に報告されているが,その起源は骨軸に沿って配向したコラーゲン線維の圧電効果と考えられている.最近我々は,ラット大腿骨のASEMイメージングを取得し,(1)ASEM応答は主に皮質骨から生じる,(2)大腿骨の膝側間接部に近い骨幹部において局所的にASEM応答が大きい領域が存在する,ことを見出した.(2)の結果は,右足,左足,および複数の個体に対して見出されており,一般的な現象であると考えられる.また,ヒトの大腿骨に電極をつけて測定した先行研究における圧電効果分布と一致しており,ASEM応答が骨の圧電係数分布を可視化していることを強く示唆する.圧電効果は結晶配向性やコラーゲン架橋との関連性が深いことから,ASEM応答を通した“骨質”の非侵襲評価が期待される.現在,ASEM法によって得られる物理量とμCTおよびその他の骨の物性パラメータとの相関を詳しく調べ,定量的骨質診断法の確立を追求したいと考えている.本講演では,本計測の基本的考え,測定方法,および骨に関する研究状況について報告したい.
[1]K. Ikushima et al., Appl. Phys. Lett. 89(2006)194103.
[2]N. Ohno et al., Proceedings of Symposium on Ultrasonic Electronics 33,523(2012).