Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

共同企画6
光超音波画像研究会・基礎技術研究会共同企画超音波マルチモダリティ技術の最新動向

(S203)

光音響イメージングによるミクロレベルの組織血流評価

Evaluation of Microscopic Blood Flow with Photoacoustic Imaging

西條 芳文1, 佐藤 みか1, 山崎 玲奈1, 長岡 亮1, 鷲尾 勝由2, 松浦 祐司1

Yoshifumi SAIJO1, Mika SATO1, Rena YAMAZAKI1, Ryo NAGAOKA1, Katsuyoshi WASHIO2, Yuji MATSUURA1

1東北大学医工学研究科, 2東北大学工学研究科

1Graduate School of Biomedical Engineering, Tohoku University, 2Graduate School of Engineering, Tohoku University

キーワード :

【はじめに】
光音響イメージング(photoacoustic imaging: PAI)は,物質にナノ秒オーダーのレーザー光を照射するときに,組織の瞬間的な熱膨張により発生する超音波を検出し画像化することを原理としている.ワシントン大学のWangらのグループが発表した生体内血管網の可視化により,生体内部の細動脈および細静脈の立体構造の可視化や血液の酸素分圧の可視化が実現されており,がん組織への栄養補給に関係するangiogenesisや初期動脈硬化に関連するvasa vasorumの評価法としてのPAIの可能性が示され,以降,全世界で本領域の研究が進展している.
われわれの研究グループでは,医学・生物学用超音波顕微鏡の開発により培った高周波数超音波に関する種々の技術を応用することで,2008年にPAIの研究を開始した.研究開始当初は超音波の2倍の解像度で光の2倍の深達度のイメージング技術を開発することを目的にしていたが,生体組織の光学特性および音響特性の複合情報による組織性状評価を主な目的として研究を継続している.本稿では,これまでの研究成果として,ラット膝関節の変形性膝関節症モデル,ニワトリ胎児の心血管系,生体の爪および爪床の可視化などを例示する.
【方法】
中心周波数50 MHz,半径4.5 mm,焦点距離9.0 mmのPVDF製の凹面超音波振動子の中央に直径約1 mmの穴をあけ,そこに直径1 mmの光ファイバーを通すことで,レーザー照射と超音波受信を同軸で行うことのできる光音響プローブを作製した.波長532 nm,パルス幅3.2 ns,パルス繰り返し周波数10 Hz,強度420μJの半導体短パルスレーザーを対象に照射し,発生した超音波を受信しパワーアンプで増幅後,サンプリング周波数2 GHzの高速デジターザカードでパーソナルコンピュータに取り込んだ.X-Yステージ上に試料を載せ,上方から光音響プローブを二次元走査することで組織の深さ方向の光音響信号を各点で取得し,三次元画像の再構築を行った.同一システムで超音波の送受信も行い,三次元超音波画像も作成した.トリガー信号作成,超音波の送受信,X-Yステージの走査などはすべてWindows上のLabVIEWプログラムによって制御した.
【結果】
ラット膝関節では,超音波は骨表面で強く反射され骨内部には透過していかないが,光音響信号はむしろ骨内部から強く発生していることがわかった.これは,532 nmのレーザー光がほぼ透明な軟骨および白色の骨を透過し,赤色の骨髄で光音響信号を発生したためと考えられた.超音波イメージングではOAが進行するにつれて軟骨表面の凹凸が顕著になることがわかり,PAIではOAが進行するにつれて海綿骨で発生する光音響信号が強くなることが分かった.ニワトリ胚の三次元超音波画像およびPAIでは,超音波で低エコー領域として示された血管系が光音響では強い信号を示していることがわかった.ヒトの爪および爪床の超音波Bモード像およびPAIでは,特にPAIにより毛細血管の発達した真皮で強い信号を生じており,血流や血管の分布をよく示していると考えられた.
【結語】
レーザー光の波長を選択することや,金微粒子や各種色素をコーティングした抗体を用いることで,標的組織の三次元分布の可視化が期待される.また,広範囲に照射したレーザー光により発生した超音波をアレイ型振動子で検出する際に,平行波のビームフォーミング技術を応用することで高速化および臨床応用が期待される.