Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

共同企画5
日本超音波検査学会共同企画救急診療に超音波の“知”と“技”を生かす

(S201)

腹部領域の救急診療における超音波検査の立ち位置について

The role and the position of the ultrasound in taking care of the patient with acute abdominal disease

住野 泰清1, 松清 靖1, 池原 孝1, 丸山 憲一2, 工藤 岳秀2, 渡邉 学1

Yasukiyo SUMINO1, Yasushi MATSUKIYO1, Takashi IKEHARA1, Ken-ichi MARUYAMA2, Takahide KUDOU2, Manabu WATANABE1

1東邦大学医療センター大森病院消化器内科, 2東邦大学医療センター大森病院臨床生理機能検査室

1Gastroenterology and Hepatology, Toho University Ohmori Medical Center, 2Ultrasound Labo., Toho University Ohmori Medical Center

キーワード :

消化器を専門とする私にとって,超音波装置は「透視メガネつき触診装置」である.その装置の置き場所は常に私の傍である.この「傍ら」が救急診療における超音波検査の立ち位置そのものと考えている.
腹部領域と一口に言ってもそこには肝・胆・膵,消化管,泌尿器,婦人科臓器,後腹膜臓器など極めて多彩な臓器が含まれる.腹部救急診療とは,それら臓器に由来する急性疾患への初期対応を広く意味するものであり,夜中の救急外来が全てではない.そのような救急診療の場で,超音波検査がどうあるべきかが今回のセッションのタイトルと考える.
医師は診療に際して,まず診断をつけてから適切な治療をするのが原則であるが,救急の場では悠長に精密検査をやって診断確定をして,というような時間的余裕はない.とりあえず得られる臨床情報を基に迅速な判断をくだし,直面する問題を解決し,状況に応じて次の精査加療へと正しく導くという知識と能力が求められる.そのためには丸腰で十分な救急診療ができる素養を磨くことがまず大切であるが,重症な患者に対して様々な治療が救急対応可能となった近年においては,迅速かつ正確な診断が必須であり,やはり画像診断法を欠くことはできない.
画像診断法としては,検者の技術や患者の状態にかかわらず的確な情報が得られるCTが,救急診療に最も適しているとされ(※),昨今ではCT偏重の傾向が強い.しかしCTは装置が大きく,エックス線被爆や穿刺治療に関連するいくつかの問題点を抱えているのも事実である.それに比べ超音波検査は,客観性という面で多少問題はあるものの,コンパクトで解像度は高く,規模の小さい施設でも十分導入可能であり,腹部救急の診療サポートとして極めて有用なツールと考える.とくにポータブル装置と称される一群の超音波装置は,性能はそこそこであるが患者および診療環境に合わせて,いかようにも応用が可能であり,救急医療の現場ではかなり役に立つ.ただし,ここで重要になるのが装置の置かれている位置である.いきなり冒頭の内容に戻るが,傍らにあることが重要である.遠ければ医者も患者もそこまで出向く必要が生じ,指示の一手間だけで,手を煩わすことなく客観的なデータが得られるCTの誘惑に負ける.傍らにあれば,心得のある医師であればとりあえず手にとって,患者に当ててみるはずであり,病態把握の役に立つ.
技師に関しても同じことがいえる.といっても,傍らという表現は当てはまらない.その代わりに,ニーズに応じてどこでもたちどころに対応できるフットワークが必須である.遠い検査室で構えているだけではCTに負ける.世の中はCTを知っており,診療の待ち時間にCT検査をやってもらえると信頼感・満足感を感じる患者が多いことを関係者は知っておくべきである.
救急の場で超音波検査がさらなるニーズを得るためには,自分でプローブを握ることのない医師にも超音波情報を24時間提供できる技師の体制が必要である.ここで問題となるのが,検査の信頼性である.病変が描出されない場合,病変がないのか下手なのか,となってしまう.これを乗り越えるためには,見落としの少ない検査技術のうえに,技師といえども症候・病態への深い理解が必要となる.以上のような観点に立ち,超音波装置を傍らに日常診療を行ってきた経験をふまえ,消化器の疾患を中心にお話しをさせていただく.
【参考文献】
Jaap Stoker, et al: Imaging patients with acute abdominal pain. Radiology 253:31-46,2009