Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般ポスター
コメディカル:症例

(S693)

術前診断が困難であった肝嚢胞内血腫の1例

A case of liver cyst with intracystic hematoma which had difficulty with preoperative diagnosis

稲垣 正樹1, 玉野 正也2, 須田 季晋2, 瀧沢 義教1, 一戸 利恵1, 谷塚 千賀子1, 柴崎 光衛1, 吉永 圭吾3, 春木 宏介1

Masaki INAGAKI1, Masaya TAMANO2, Toshikuni SUDA2, Yoshinori TAKIZAWA1, Rie ICHINOHE1, Chikako YATSUKA1, Mitsuei SHIBAZAKI1, Keigo YOSHINAGA3, Kousuke HARUKI1

1獨協医科大学越谷病院臨床検査部, 2獨協医科大学越谷病院消化器内科, 3越谷誠和病院外科

1Department of Clinical Laboratory, Dokkyo Medical University Koshigaya Hospital, 2Department of Gastroenterology, Dokkyo Medical University Koshigaya Hospital, 3Department of Surgery, Koshigaya Seiwa Hospital

キーワード :

【はじめに】
肝嚢胞は,肝臓の腫瘤性病変の中でも特に頻度が高く,稀に壁の肥厚,隔壁構造,嚢胞内充実成分が観察される事があり,嚢胞腺腫,嚢胞腺癌,嚢胞内出血,嚢胞内感染などとの鑑別が困難な場合がある.
【症例】
63歳の男性.自覚症状なし.家族歴,既往歴に特記事項なし.飲酒歴なし.常用薬剤なし.30年以上前から毎年検診を受診し,肝嚢胞を指摘されていた.詳細は不明であるが嚢胞に内部エコーを指摘された事はない.2011年5月に施行された検診の腹部超音波検査にて肝嚢胞の精査をすすめられ近医を受診.近医にて施行された腹部超音波検査で肝右葉後下区域に隔壁と充実エコーを伴った嚢胞性病変を認めた.単純CTでは嚢胞は5cm大であり,超音波で認めた隔壁や充実成分は明らかでなかった.造影CTではわずかに造影効果を認める隔壁構造を認めたが,超音波所見とは解離している印象であった.MRIの拡散強調画像では嚢胞は腎とほぼ等信号であり,単純性嚢胞は否定的であった.以上の所見から嚢胞腺腫または嚢胞腺癌を否定できず,同年6月に当院消化器内科に紹介された.初診時の血液生化学検査:WBC 5.0×10×3/L, Hb 14.8 g/dl, Plt 22.2×10×3/L, AST 24U/L, ALT 21U/L, ALP 198U/L, GGT 62U/L, T-Bil 1.69mg/dl, D-Bil 0.18mg/dl, CRP 0.2mg/dl, HBs Ag-, HCV Ab-, AFP 10.1ng/ml, PIVKA-II 22mAU/ml, CEA 3.2ng/ml, CA19-9 22U/mlとGGTに軽度の上昇を認めたが,炎症反応および腫瘍マーカーは基準内であり,貧血も認めなかった.当院の腹部超音波検査では肝に多発する嚢胞を認め,S6の嚢胞が最大で長径5cmであった.嚢胞壁は肥厚し内部には隔壁と不整な充実性のエコーを認めた.造影超音波検査では動脈優位相の早期で隔壁と肥厚した嚢胞壁に微細な線状の染影を認め,その後充実成分に染影を認めた.門脈優位相では隔壁と肥厚した嚢胞壁は周囲肝に比して低エコーを呈した.これらの所見から腫瘍性病変が否定できず,前医にて肝亜区域切除術が行われた.摘出された嚢胞は,病理学的に腫瘍性病変は否定され,肥厚した壁は線維化を伴う陳旧性血腫と診断された.
【考察】
肝嚢胞内出血は,単純性肝嚢胞の比較的まれな合併症であり,超音波検査にて嚢胞内に隔壁構造と充実成分が描出されるものの,CTでは描出されないという画像所見の解離が腫瘍性病変との鑑別において有用とされる.本症例も超音波像とCT像の解離を認めたが,造影超音波にて隔壁構造と充実成分に造影効果を認めたため,腫瘍性病変が否定できなかった.また,本症例には打撲の既往,貧血,腹痛等の嚢胞内出血を示唆する臨床所見を認めていない.以上,画像診断において嚢胞腺腫や嚢胞腺癌を否定出来ず術前診断が困難であった嚢胞内血腫を経験し,興味深い症例と考え報告する.