渡部 多佳子¹, 石田 秀明¹, 小松田 智也¹, 古川 佳代子¹, 八木澤 仁¹, 石井 透¹, 長沼 裕子², 宮内 孝治³, 奈良 和彦⁴, 長井 裕⁵

Takako WATANABE¹, Hideaki ISHIDA¹, Tomoya KOMATSUDA¹, Kayoko FURUKAWA¹, Hitoshi YAGISAWA¹, Toru ISHII¹, Hiroko NAGANUMA², Kouji MIYAUCHI³, Kazuhiko NARA⁴, Hiroshi NAGAI⁵

¹秋田赤十字病院超音波センター, ²市立横手病院内科, ³秋田赤十字病院放射線科, ⁴東芝メディカルシステムズ株式会社超音波担当, ⁵N.G.I研究所超音波担当

¹Department of Diagnostic Ultrasound, Akita Red Cross Hospital, ²Department of Internal Medicine, Yokote Municipal Hospital, ³Department of Radiology, Akita Red Cross Hospital, ⁴Department of Ultrasound SystemGroup, Toshiba Medical Systems Corporation, ⁵Department of Ultrasound SystemGroup, NEW Generation Imaging Laboratory

キーワード :

肝血管腫病変，特にその低エコー領域の内部で“点状エコーのモゾモゾとした動き”がreal-timeに観察されることは以前から報告されており，中でも，竹内らのMモードの報告，近年での，飯島らの“糸みみず”サインが一般的に知られている．従来この所見は肝血管腫と結びついて報告され，他の肝腫瘍例での報告はほとんどみられなかった．我々は最近この現象（以下“糸みみず”サインと統一して述べる）を認めた肝転移を2例経験したので，そのBモード像と造影超音波所見を中心に報告する．
【使用診断装置】
東芝メディカル社製Aplio XG，（中心周波数：3-4MHz）．造影法の手順は，ソナゾイド（第一三共株式会社）を用い，通常の肝腫瘍の造影方法に準じた．
【症例1】
80才代男性．右腎細胞癌からの多発肝転移例．全身倦怠感を主訴に来院．生化学データでは貧血，軽度の肝機能異常を認めた．超音波（Bモード）上，肝は両葉腫大し内部に多数の転移巣あり．病変径は主に5cm前後でエコー輝度は周囲肝より高く，内部に低エコー領域が不規則に分布していた．この低エコー領域の内部には点状エコーが存在し，それら点状エコーがreal-time観察下に“ピクピク”移動し，“糸みみず”サインを示した．これらの動きはMモードでも時間軸に対する位置の変化として克明に記録された．転移巣全体は，造影超音波上，早期に濃染し通常の肝転移の所見であったが，上記の低エコー領域に関しては，a）腫瘍内の比較的径の大きな血管（位置的な観点から腫瘍血管と考えられる）が染まった直後に，b）低エコー領域全体が直ちに染まった．2日後に死亡．
【症例2】
80才代女性．子宮癌からの多発肝転移例．全身倦怠感を主訴に来院．生化学データでは貧血，軽度の肝機能異常を認め臨床所見は症例1と近似していた．超音波所見も腫瘍が若干小径である事を除くと症例1と近似しており，腫瘍内部の低エコー領域部に“糸みみず”サインが見られた．造影超音波上，その低エコー領域に関しては，a）腫瘍内の比較的径の大きな血管（位置的な観点から腫瘍血管と考えられる）が染まった直後に，b）低エコー領域全体が直ちに染まった．現在抗癌剤治療を検討中．
【まとめと考察】
以前より肝血管腫例に見られる“糸みみず”サインに関しては，低エコー領域に見られると報告されており，この特徴は今回の転移例に関しても同様であった．一方，糸みみずサインの中核をなす移動する“点状エコー”の本体に関しては，1）血流による類洞の動き，2）移動する血球の散乱など挙げられているが，未だ最終結論が得られていない．今回の2例に関しては，1）は否定的で，造影超音波所見からは“径の大きな腫瘍血管内部の血球の動き”によると推定されるが，これに関しても今後の多数例の集積が必要である．いずれにしても，“糸みみず”サインが肝転移にみられたことは注目すべきと考え報告する．