Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般ポスター
消化器:消化器・その他

(S656)

劇症型アメーバ大腸炎の一例

Acute fulminant necrotizing amoebic colitis: a case report

飯田 あい1, 畠 二郎1, 今村 祐志1, 眞部 紀明1, 河合 良介1, 谷口 真由美2, 麓 由起子2, 春間 賢3

Ai IIDA1, Jiro HATA1, Hiroshi IMAMURA1, Noriaki MANEBE1, Ryosuke KAWAI1, Mayumi TANIGUCHI2, Yukiko FUMOTO2, Ken HARUMA3

1川崎医科大学検査診断学, 2川崎医科大学附属病院中央検査部, 3川崎医科大学消化管内科学

1Department of Clinical Pathology and Laboratory Medicine, Kawasaki Medical School, 2Department of Clinical Laboratory, Kawasaki Medical School Hospital, 3Division of Gastroenterology, Department of Internal Medicine, Kawasaki Medical School

キーワード :

【はじめに】
赤痢アメーバ感染症は無症候性嚢子保有者,慢性大腸炎,急性大腸炎に分類されるが,非常にまれに腸管壊死を伴う劇症型腸炎を発症することがあり,診断および治療が遅れると死亡率が極めて高い.腹部超音波で腸管壊死を診断して救命し得た劇症型アメーバ大腸炎の一例を経験したので報告する.
【症例】
80歳男性
【主訴】
発熱,血便
【現病歴】
201X年6月中旬から1日20行の血性下痢出現し,ウィルス性腸炎の診断で近医入院したが改善せず,第5病日に大腸内視鏡で潰瘍病変認めたため紹介された.
【入院時現症】
血圧 104/60mmHg,脈拍120回/分,体温37.7℃.腹部:平坦,軟,腸音正常,右〜正中の下腹部に圧痛,反跳痛なし
【経過】
第5病日の腹部CTでは,大腸全域の壁肥厚および周囲脂肪織の肥厚を認め,粘膜面の造影効果増強を伴い腸炎の診断であった.第6病日の腹部超音波では,少量腹水と大腸全域に潰瘍伴う不整な壁肥厚を認め,S状結腸では層構造が消失していた.原因の特定は困難であったが腸炎と診断した.同日施行した大腸内視鏡ではS状結腸までの観察であったが,出血を伴う散在性びらん,汚い白苔伴う潰瘍,偽膜を伴う広範な潰瘍病変を認めた.病理結果は検体少量で診断には至らなかった.感染性腸炎の診断で抗生剤治療を行っていたが,腹痛が増悪したため第10病日に腹部超音波を再検した.腹水の著明な増量および大腸の壁肥厚は層構造が不明瞭化しており,一部では腸管壁が著明に菲薄化しおり,造影超音波を施行したところ腸管壁の染影がみられず腸管壊死と診断した.緊急大腸全摘術が施行された.腸管壁は把持するだけで崩れるほどもろくなっており,病理組織結果でアメーバ性腸炎と診断された.メトロニダゾールなどによる治療を開始したが,呼吸不全,肝膿瘍,腹腔内膿瘍,敗血症を併発し,長期間の集中治療を要し,第117病日に気管切開をした状態でリハビリ目的に転院をした.
【考察】
アメーバ感染症は性感染症あるいは発展途上国への旅行による感染が多いと考えられてきたが,近年では感染源が特定できない症例も増加しているため,常にアメーバ腸炎の可能性を念頭に置く必要がある.本症例ではアメーバ性腸炎の診断に至らなかったが,腸管の一部が菲薄化していたこと,造影で染影が見られなかったことから,腸管壊死を診断し救命することが可能であった.腸管壊死には層構造の観察および造影超音波が有用である.また,潰瘍を伴う腸炎の像からアメーバの所見を指摘できていた可能性もある.劇症型アメーバ大腸炎という病態は,稀ではあるが急速に病態が悪化し,予後の悪い疾患である.アメーバの他にはC.difficileも劇症化することがあり,腸管感染症の診療においては注意が必要である.