Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般ポスター
循環器:弁疾患・その他Ⅱ

(S652)

トラスツズマブ投与中にたこつぼ型心筋症を発症した一例

A case of Takotsubo cardiomyopathy following Trastzumab chemotherapy

渡邊 伸英

Nobuhide WATANABE

島根大学内科学講座四循環器内科

Fourth division of Internal Medicine, Cardiology Department, Shimane university

キーワード :

【背景】
乳癌に対する化学療法として広く用いられているトラスツズマブは,副作用として心毒性が知られている.今回我々はトラスツズマブ投与中にたこつぼ型心筋症を発症した症例を経験したので報告する.
【症例】
58歳女性.200X-3年に左乳癌と診断,手術を受ける.同年12月よりエピルビシン,シクロフォスファミド,タキソテールによる術後補助化学療法を受ける.200X-1年8月よりパクリタキセル,トラスツズマブに変更.その後はトラスツズマブに,パクリタキセル,ドセタキセル,カペシタビン何れか併用の2剤で加療継続.200X年8月,化学療法のため定期受診した際にふらつきと徐脈(35bpm)を認め当科を紹介受診.心不全症状はなかったが,経胸壁心エコー図検査で左室駆出率は38%と低下し,たこつぼ型心筋症様の形態を認め同日入院.入院後化学療法は中止し経過観察とした.第20病日に心電図で巨大陰性T波が出現.心不全症状なく経過したが,左室壁運動の改善には約2ヶ月,心電図の正常化には約3ヶ月を要した.退院後,抗癌剤を変更し心機能の悪化なく経過している.
【考察】
トラスツズマブによる心毒性は1〜4%に症候性心不全,10%に左室駆出率低下を認めるとされている.心毒性出現のリスクには,心疾患の既往,アントラサイクリン系抗癌剤との併用或いは過去の投与歴などがある.また休薬と一般的心不全治療のみで殆どの例が改善するとされ,本症例の経過もこれらの報告と一致する.文献的にはトラスツズマブとたこつぼ型心筋症の関連を示す報告はなく,本症例と心毒性の関連も明らかでないが,心毒性の一形態としてたこつぼ型心筋症を発症する可能性は考慮される.また本症例で,一般的なたこつぼ型心筋症と比較し左室壁運動や心電図の正常化に時間を要していることも心毒性の影響である可能性がある.トラスツズマブによる心毒性は投与量に依存せず,初回投与からの期間もまちまちであるため,投与中は定期的な心機能評価を行い注意深く経過を見る必要がある.
【結語】
トラスツズマブ投与中にたこつぼ型心筋症を発症した症例を経験した.トラスツズマブがたこつぼ型心筋症の発症や遷延に関与する可能性がある.トラスツズマブ投与に際してはリスク評価を十分に行い,注意深く心機能を観察する必要がある.