Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般口演
頭頸部:頭頸部

(S624)

摘出標本における硬さの評価(Virtual Touch Tissue Quantification)と組織像の比較

Does Pathological Structure Reflect Evaluation of Excised Specimen With Acoustic Radiation Force Impulse-Imaging in Head and Neck Region?

福原 隆宏, 松田 枝里子, 北野 博也

Takahiro FUKUHARA, Eriko MATSUDA, Hiroya KITANO

鳥取大学医学部感覚運動医学講座耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野

the Department of Otolaryngology-Head and Neck Surgery, Faculty of Medicine, Tottori University

キーワード :

【はじめに】
近年,超音波機器の発展は著しく,組織の硬さの評価が試みられている.組織弾性イメージング(Elasticity Imaging:EI)は,甲状腺超音波検査における補助診断としての有用性を研究されているが,関心領域(Region of Interest:ROI)の中での相対評価となるため,同一検査野に入らないものや,異なる被検者を比較することはできない.一方,新しい技術である持田シーメンス社製のACUSON S2000のvirtual touch tissue quantification (VTTQ)は,音響放射圧で発生する剪断波の速度(Vs値)を測定することにより,組織の硬さを定量的に評価できることが期待されている.しかし,まだ開発されて間もないため,臨床的なデータが少ない.特に頭頸部における報告はほとんどない.今回の研究では,手術での摘出標本をゲルに埋没し直接VTTQでVs値を測定することで,平均Vs値,測定の可否と病理組織像との比較を行った.また術前のVs値と比較し,VTTQの臨床での有用性を検討した.
【方法】
2012年7月以降に手術を施行し,術後6時間以内に摘出標本を検査できた頭頸部腫瘍の患者を対象に研究を行った.摘出病理標本をゲル(ECHO JELLY; Hitachi Aloka Medical, Ltd. Tokyo, Japan)に埋没し,超音波で評価した.Bモード画像で見え方の違う複数の部位で,それぞれVTTQによりVs値を連続5回測定した.その後,超音波断層像と同一平面で標本を作成した.作成した標本の病理組織像と超音波画像を比較し,各部位においてVTTQで得られた平均Vs値を比較した.
【結果】
頭頸部癌の患者4名のうち,甲状腺乳頭癌症例が2例,頭頸部扁平上皮癌症例が2例であった.甲状腺や,乳頭癌もしくは扁平上皮癌の転移リンパ節に対する超音波Bモード画像は,H-E染色した病理標本の組織像はよく反映していた.甲状腺乳頭癌の組織像は細胞密度が高く,コロイドを含む組織像を呈する正常甲状腺に比べ,平均Vs値は高くなった.甲状腺乳頭癌の転移リンパ節では,リンパ球が多く見られる正常部分に比べ,上皮癌細胞が密にあり間質の増生も伴う転移部分の平均Vs値は高くなった.一方,扁平上皮癌では,癌細胞が密に見られる部分に比べ,間質が増生しクリスタロイドが沈着した組織像を呈する部分の平均Vs値が高くなった.また,癌細胞や間質組織,脂肪織などが混在する部位ではVs値は得られなかった.術前の平均Vs値と摘出標本の平均Vs値を比較すると,甲状腺乳頭癌では術前の値が摘出標本の値と同じような傾向を示したのに対し,扁平上皮癌では術前のVs値が測定できなかった場合がほとんどであった.
【考察】
今回の研究の結果,摘出標本においてVTTQにより測定したVs値は,病理組織像を反映する傾向にあった.一方,生体では測定値が安定しないだけでなく,測定自体がエラーとなることが多く見られた.この理由として,生体内では様々な条件が剪断波に影響を及ぼすことが予測される.さらに生体における組織の硬さは,周囲組織との関係や血流なども関係している可能性も考えられる.特に扁平上皮癌が生体においてVs値が得られにくかった理由は,腫瘍細胞の増殖速度が早く,腫瘍内部の組織像は壊死や間質細胞の増殖など様々な組織像を示し,周囲への炎症の波及や浸潤傾向が強いことが考えられた.
【結論】
摘出標本におけるVTTQでのVs値は,病理組織像と相関している可能性が示唆されたが,一方,生体におけるVs値は,必ずしも病理組織像を反映するものではないのかもしれない.