石田 秀明¹, 大山 葉子², 長沼 裕子³, 伊藤 恵子⁴, 須田 亜衣子⁴, 黒田 聖仁⁵, 野地 直毅⁶, 奈良 和彦⁶

Hideaki ISHIDA¹, Youko OHYAMA², Hiroko NAGANUMA³, Keiko ITOU⁴, Aiko SUDA⁴, Masahito KURODA⁵, Naoki NOCHI⁶, Kazuhiko NARA⁶

¹秋田赤十字病院超音波センター, ²秋田組合総合病院臨床検査科, ³市立横手病院消化器科, ⁴仙北組合病院臨床検査科, ⁵福島赤十字病院消化器科, ⁶東芝メディカルシステムズ超音波担当

¹Center of Diagnostic Ultrasound, Akita Red Cross Hospital, ²Department of Medical Laboratory, Akita Kumiai General Hospital, ³Gastroenterology, Yokote Municipal Hospital, ⁴Department of Medical Laboratory, Senboku General Hospital, ⁵Gastroenterology, Fukushima Red Cross Hospital, ⁶Ultrasound System Group, Toushiba Medical Systems

キーワード :

【はじめに】
近年のコンピューター技術の進歩に伴いvolume dataの多彩な活用が可能となってきた．その中でも，volume data内に含まれる無エコー部全体を結合させて表示する手法の一種であるFly thru （Fly through:以下FL法）が最近開発され，その診断的価値が注目されつつある．今回，我々はFL法による膀胱内腔観察能を検討し若干の知見を得たので報告する．使用超音波装置:東芝社製：Aplio500,プローブは機械式3Dプローブ（中心周波数:3-4MHz）．
【Data収得とFL像作成法】
従来のcavity modeは3Dプローブを自動的に作動させ収得されたvolume dataを基に無エコー構造物を空間的に配置するだけであったが，FL法はソフト面の改良で，表示された無エコー構造物の壁部の状態をその内腔から見たように表示する新手法である．
【対象と方法】
1）正常人10例の膀胱に関しそのFL像を検討した．2）膀胱病変5例（膀胱癌2例，膀胱結石2例，膀胱憩室1例）に関してそのFL像を作成し，同時に得られたcavity mode像と比較検討した．
【結果】
1）正常膀胱はFL上全て微細顆粒状の僅かな凹凸が均一に分布する壁構造を示していた．2）膀胱癌例では病変表面の大きく不均一な隆起のみならず病変-周囲粘膜の関係が全例でcavity modeよりはるかに明瞭に表示された．3）膀胱結石は限局性の盛り上がりとして表現されていた．4）膀胱憩室では両腔を通過する様を実際に（視覚的に）疑似体験できた．5）cavity modeはほぼreal-time表示が可能であったがFL法は画像表示はvolume data収得後5-10分を要した．
【まとめと考察】
最近開発されたFly thru法の膀胱の観察に関する最初期経験を報告した．まだデータ収得や画像作成に5-10分を要するため検査中のその情報を生かし検査の起動補正をする，という日常の超音波検査の長所を生かすところまでは行っていないが，作成された画像は（他の手法では得られない）非常に優れたvirtual reality空間を提示してくれるなど，今後データ収得や画像作成が短時間で（可能ならほぼreal-timeで）得られると超音波診断の新たな可能性を開くものと期待される．なお，今回膀胱を対象にしたのは，a）超音波は軟部組織-軟部組織間の反射より軟部組織-液体間の反射が大きく，液体を満たした臓器の壁の詳細な表現能に優れていること，b）肋骨の存在で大きな機械式3Dプローブの接触に難渋する上腹部臓器と異なり，腸内ガスを避けることで容易に全体の観察が可能である事，が挙げられる．今後膀胱はFL法の最適な対象臓器として多数の検討がなされることが期待される．