Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般口演
産婦人科:横隔膜ヘルニア・他

(S597)

胎児に膀胱出口部閉塞が疑われた2例

Fetal Bladder-Outlet obstruction: Case Reports

村上 聡子

Satoko MURAKAMI

長崎大学病院産婦人科

OBGY, Nagasaki university hospital

キーワード :

【背景】
膀胱出口部の閉塞は,他のレベルでの尿路の閉塞と異なり,全尿路と肺の発達に影響を及ぼす可能性を持つ.その中でも頻度が高い後部尿道弁は尿路系の異常の10%を占める.出生後の腎機能不良を予測する超音波所見は,皮質下嚢胞,腎臓のエコー輝度上昇などの所見であると言われている.
症例1 母親は28歳の0妊0産婦.家族歴,既往歴に特記事項はない.無月経を主訴に近医産婦人科を受診し,2絨毛膜2羊膜双胎と診断された.その後,胎児の頭殿長より分娩予定日が決定された.双胎妊娠管理目的に,妊娠13週に当科を紹介され受診した.当科初診時は特に異常を認めなかったが,妊娠15週2日の時点で片方の児の腹部に嚢胞性病変が疑われ,羊水深度(AFV)21mmと羊水量は少なめであった.妊娠16週Ⅱ児の後部尿道弁による両側水腎症の診断で,精査目的に入院した.入院後の経腹超音波検査で,両児はともに男児で,Ⅱ児は膀胱と思われる拡張した嚢胞を認めた.両側の腎皮質は左は全体に高輝度で腎盂ははっきり見えず,右は一部高輝度で腎盂もしくは尿管の拡張を認めた.また,単一臍帯動脈も認めた.Ⅱ児の羊膜腔はほとんど認められなかった.膀胱の大きさは16*10*18 mmで経時的な観察で変化がなかった.診断は後部尿道弁疑い,羊水過少,単一臍帯動脈で,腎臓の所見および膀胱容量と羊水量に変化がないことから,胎児の腎機能が低下ないし廃絶しているものと考えられた.Ⅰ児には超音波検査上,異常を認めなかった.ご両親にⅡ児の診断および予後について説明したところ,Ⅱ児に対する治療は行わず,自然経過をみることを希望された.退院後は当科外来管理中である.
症例2 母親は32歳の1妊0産婦.家族歴に特記事項はない.既往歴として26歳から潰瘍性大腸炎であり,近医でフォローアップ中である.無月経を主訴に近医産婦人科を受診し,妊娠と診断された.里帰り分娩を希望し,妊娠26週からは実家近くのクリニックで妊娠管理された.妊娠27週5日,児の膀胱充満,尿道拡張,両側水腎症および羊水減少傾向(AFV53→38mm)を認め,精査目的で妊娠28週0日に当科を紹介され受診した.AFV27mmと更に羊水量が減少していたため,管理目的に妊娠28週1日入院した.入院後,妊娠28週4日にはAFV8mmと更に減少を認めた.HFUPRを行ったところ,胎児の尿産生は低下していたが,排尿は認められた.入院中AFVは10mm前後で経過し,それ以上の減少は認めなかった.分娩後の小児科管理の必要性を説明したところ,自宅近くでの管理を希望したため,30週4日に転院した.転院後の超音波所見からも,羊水過少と両側水腎症を認め,後部尿道弁が疑われたが,水尿管,膀胱拡大の増悪はなかった.羊水過少はあったが,羊水量は保たれており,明らかな肺低形成所見はなかった.32週0日に前期破水し,骨盤位のため緊急帝王切開術が施行された.出生体重1748gの男児 A/P=5/5/8で,NICU管理となった.精査の結果,後部尿道弁と診断された.
【考察】
後部尿道弁が原因と考えられる膀胱出口部閉塞所見を認めた胎児の2例を経験した.膀胱出口部閉塞の主要な特徴所見は,著明で持続する膀胱の拡張と,膀胱壁に肥大やしばしば肉柱形成がみられることである.今回の2症例でも著明な膀胱の拡張がみられた.膀胱出口部閉塞をきたした胎児の予後を決定するのは,1つは羊水過少に伴う肺低形成であり,もう1つは腎機能である.肺低形成を予防するのに尿路-羊膜腔シャントは一定の効果があると考えられるが,胎児の腎機能を評価する手段として確立したものはなく,有効な治療法も明らかでない.今回の2症例からは,連続的かつ経時的な超音波検査は胎児の腎機能を推定するのに重要な検査と考えられた.