Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般口演
消化器:脾臓

(S543)

遊走脾による脾梗塞の診断に超音波カラードプラが有用であった1例

A case of color Doppler ultrasonography was useful in dianogsis of splenic infarction by wandering spleen

細沼 知則, 太田 智行, 西岡 真樹子, 佐久間 亨, 中田 典生, 宮本 幸夫, 福田 国彦

Tomonori HOSONUMA, Tomoyuki OHTA, Makiko NISIOKA, Tohru SAKUMA, Norio NAKATA, Yukio MIYAMOTO, Kunihiko FUKUDA

東京慈恵会医科大学付属病院放射線科画像診断部

Department of radiology, Medical university of Jikei

キーワード :

症例は3歳男児で低出生体重児,Down症,先天性僧帽弁狭窄(保存的治療中).2歳時にGERDで腹腔鏡下Nissen噴門形成術を施行している.2012年2月下旬,突然の腹痛が出現したため前医を受診,術後性イレウスの診断で当院に紹介受診,緊急入院となった.発熱,下痢なし.腹部は緊満し,左下腹部に腫瘤を触知した.WBC 11800, Hb11.6, Plt 37.9万,CRP 0.89.入院時の腹部超音波,単純CTで触知した腫瘤は膀胱上に認めためS状結腸内の便塊と考え,術後の癒着性イレウスと診断し,絶食と抗生剤投与,浣腸による保存的治療を行った.入院後7日目,血液検査でPltの上昇と貧血の進行を認め,脾機能亢進症を疑い再び腹部超音波を施行,左傍結腸溝に腫大した脾臓が頭尾方向に逆転し,カラードプラで血流は消失していた.遊走脾の軸捻転による脾梗塞を疑い造影CTを施行したところ,脾臓内部の一部と辺縁のみに造影効果が認められた.また脾静脈が高濃度を呈しており,血栓の存在が疑われた.入院時に認められたS状結腸の便塊と考えられた膀胱上の腫瘤は遊走脾による脾梗塞の診断に至り,アスピリン100mg/2x, 感染予防目的でバイシリンG 0.5g/3xの内服を開始した.その後,排便を認め,腹満,発熱とWBC, CRP, Pltも改善し,傾向摂取も可能となり,入院後29日目に退院し,現在に至っている.脾臓は脾門と膵尾部近傍の領域を除いて腹膜で覆われている.この被覆腹膜が胃脾靭帯,横隔膜脾靭帯,脾結腸靭帯,脾腎靭帯を形成し,脾臓は固定されている.これらの靭帯が先天的に欠如するか,後天的な理由で支持靭帯が著しく進展弛緩した場合に遊走脾が発生する.後天的な理由に,多産,外傷,マラリアや腫瘍による脾腫などがある.遊走脾は比較的まれな疾患であり,全年齢に見られるが10才以下の小児に多く,1:5と女性に多い.遊走脾は軸捻転がなければ無症状である.慢性期では軸捻転の発生と解除のために,数ヶ月から数年にわたり繰り返し腹痛が見られる.急性期では腹痛や嘔吐などの急性腹症として発症することが多い.以前は遊走脾に対する治療は,脾臓を温存する際の手術手技の問題やその後の再発の可能性から脾臓摘出が勧められていたが,脾臓の免疫機能の重要性の再認識から,近年では特に小児において外傷例を含めて可能な限り脾臓温存が行われるようになっている.画像検査の発達により遊走脾の診断は比較的容易となったとされているが,稀な疾患であるがため,その診断に苦慮することがある.術前に遊走脾軸捻転と診断されるのは約20%で,卵巣腫瘍の軸捻転や腸閉塞,腸間膜腫瘤,限局性腹膜炎,膿瘍などと診断されることがしばしばある.また遊走脾は広範囲にわたり腹腔内を移動することがあるという認識が少なく,これも正診率低下の要因となっている.今回,遊走脾による脾梗塞の診断に超音波カラードプラが有用であった1例を経験し,若干の文献的考察を加え報告する.