Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般口演
循環器:先天性心疾患Ⅲ

(S502)

僧帽弁副組織を認めた他に有意な心内奇形を有さない3小児例

Accessory mitral valve tissue without significant intracardiac anomalies in three children

後藤 育子1, 富松 宏文2, 石井 徹子2, 黒川 文夫1, 神田 かおり1, 鶴田 義典1, 佐藤 良夫1, 三浦 ひとみ1, 谷本 京美3, 中西 敏雄2

Ikuko GOTO1, Hirofumi TOMIMATSU2, Tetsuko ISHII2, Fumio KUROKAWA1, Kaori KANDA1, Yoshinori TSURUTA1, Yoshio SATOU1, Hitomi MIURA1, Kyoumi TANIMOTO3, Toshio NAKANISHI2

1東京女子医科大学病院中央検査部, 2東京女子医科大学病院循環器小児科, 3東京女子医科大学病院循環器内科

1Central Clinical Laboratory, Tokyo Women’s Medical University Hospital, 2Pediatric Cardiology, Tokyo Women’s Medical University Hospital, 3Cardiology, Tokyo Women’s Medical University Hospital

キーワード :

【背景】
大動脈弁下狭窄(SAS)は比較的稀な先天性心疾患でそのタイプはdiscrete typeとfibromuscular typeがあるとされている.しかし,それ以外に僧帽弁の副組織が心室中隔に挿入しSASを形成することがあり,治療方針を決める上でその狭窄のタイプを正確に診断することは重要である.
【目的】
循環器小児科の心エコー検査過去2年間,4889件の中で,有意な心内奇形を伴わず僧帽弁副組織によるSASを呈した3小児例についてエコー画像を振り返り,その特徴を明らかにすること.
【症例】
症例1.9歳男児.出生時に多呼吸,チアノーゼあり,VSD,肺高血圧症,先天性胆石症があった.3歳時にCardio-Facio-Cutaneous症候群と診断,7歳時に当院紹介受診された.VSD経過観察目的にて当科受診.収縮期駆出性雑音Levine Ⅲ/Ⅵを胸骨左縁第3肋間で聴取.胸部レントゲン:心胸郭比0.46.心電図:洞調律,正軸,V5・V6誘導でST-T平定化を認めた.心エコー:僧帽弁前尖に裂隙を認めたが,僧帽弁逆流は軽度であった.左室の乳頭筋は前および後乳頭筋は通常の位置に存在し,さらに左室流出路に小さな副乳頭筋がありそこから腱索が僧帽弁前尖に伸び,裂隙を支持していた.この副乳頭筋とそこから延びる腱索によりSASを形成していた.SASによる最大加速血流速度は4.9m/sであった.症例2.2歳女児.主訴は心雑音.胸骨右縁第2肋間で収縮期駆出性雑音Levine Ⅱ/Ⅵと心尖部で汎収縮期雑音Levine Ⅱ/Ⅵを聴取.胸部レントゲン:心胸郭比0.53.心電図:洞調律,正常軸,左室肥大.心エコー:僧帽弁前尖に裂隙を認め,その部を支持する腱索が左室流出路を横切り心室中隔に挿入していた.明らかな副乳頭筋は認めなかった.左室流出路で乱流を認めたが,最大血流速度は1.5m/sであった.わずかな僧帽弁閉鎖不全を認めたが僧帽弁狭窄は認めなかった.症例3.1歳男児.主訴は心雑音.胸骨左縁第3肋間で収縮期雑音(LevineⅡ/Ⅵ)胸部レントゲン:心胸郭比0.43.心電図:洞調律,正常軸,左室肥大所見なし.心エコー:症例2と同様の所見を示し,左室流出路で乱流を認めたが,最大血流速度は1.4m/sであった.わずかな僧帽弁閉鎖不全を認めたが,僧帽弁狭窄は認めなかった.
【考察】
僧帽弁副組織によるSASは両大血管右室起始症や完全大血管転換症ではしばしば経験するが,他に有意な心内奇形を伴わない本症は非常に稀である.SASの程度が強い場合には大動脈狭窄症と同様な基準で治療方針が決められる.しかし本症では,大動脈弁に加速した乱流が当たり大動脈弁の障害をきたす可能性があるため,狭窄の程度だけでなく大動脈弁閉鎖不全の出現にも注意を払う必要がある.さらに副組織の切除を行う場合には,僧帽弁の形態や僧帽弁と副組織の関係性などを診断しなければ副組織の切除により僧帽弁機能を障害する可能性があるので注意が必要である.また,副組織が大動脈弁と接続している例の報告もある.したがって狭窄の程度だけではなくその付着部位などについて詳細に観察する必要がある.さらに,成人例では本症が塞栓症の原因である可能性があると推測する報告もある.
【結語】
稀な先天性異常である僧帽弁副組織によるSASを呈した3小児例を経験した.本症ではSASの程度や僧帽弁の形態を詳細に評価するだけでなく,大動脈弁機能の評価や塞栓症の有無などについても検索を行う必要があると考えられた.