Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般口演
循環器:大動脈弁疾患

(S500)

上行大動脈の巨大瘤と重症大動脈弁閉鎖不全症を合併した大動脈2尖弁の1例

Severe aortic regurgitation and aneurysm of ascending aorta complicated bicuspid aortic valve : A case of report

正岡 佳子1, 高橋 梨紗1, 沖本 智和1, 土井 裕枝2, 沖野 清美2, 佐々木 洋子2

Yoshiko MASAOKA1, Risa TAKAHASHI1, Tomokazu OKIMOT1, Hiroe DOI2, Kiyomi OKINO2, Yoko SASKI2

1土谷総合病院循環器内科, 2土谷総合病院心機能検査室

1Department of Cardiology, Tsuchiya General Hospital, 2Cardiovascular Laboratory, Tsuchiya General Hospital

キーワード :

【症例】
33才,男性.心疾患の既往なし.感冒様症後呼吸困難及び起座呼吸が出現し前医救急外来を受診.LevineⅣ/Ⅵ度の拡張期灌水様雑音を聴取.WBC上昇,CRP上昇,胸部XPにて肺炎像,欝血像を認め入院となった.心エコー図やCTにて大動脈弁輪部から上行大動脈にかけての巨大瘤の形成と重症大動脈弁閉鎖不全症(AR)を認め当院へ転院となった.経胸壁心エコーでは,バルサルバ洞,上行大動脈の高度拡大を認め,弁輪拡大に伴う弁尖の接合不全が大動脈弁閉鎖不全症の原因と考えられた.大動脈弁は左冠尖と右冠尖の癒合による2尖弁が疑われ,rapheの部位に可動性の索状エコーが付着し感染性心内膜炎の合併も否定できない所見だった.左室収縮能は保たれるが,左室拡大と高度の左室拡張末期圧,肺動脈圧上昇を伴う重症大動脈弁閉鎖不全症と診断された.(LVEDV/ESV 226/83ml,LVEF 63%,AR PHT 110ms,AR RF 61%,TR-PPG 57 mmHg).冠動脈は左冠尖から起始する1本のみ確認できた.MDCTでは大動脈弁輪,バルサルバ洞,上行大動脈の高度拡大(84mm)と限局性のflapを認め,単一冠動脈も合併した.経食道心エコー図にて,大動脈弁は2尖弁と診断され,左冠尖と右冠尖の癒合したrapheの部位に12mmの索状構造物を認めたが,弁尖の軽度の肥厚を認めたのみで疣腫や弁破壊等のIEを疑う所見は認めなかった.冠動脈入口部は左冠尖上方からの1カ所のみであった.Bentall手術を施行し,大動脈弁は2尖弁で弁尖は菲薄化しfenestrationとrapheに付着する索状エコーを認めた.大動脈拡大部の内膜にtearの痕跡を認め陳旧性解離と診断された.病理組織像では大動脈弁は粘液様,硝子様変性が著明であったがIEの所見は無く,索状物は先天性構造物と考えられた.大動脈壁中膜も高度の粘液様変性と菲薄化を認めたが,感染の所見は認めなかった.術後順調に経過し術後16日で退院となった.
【考案】
大動脈2尖弁は最も高頻度の先天性性心疾患であるが,神経堤細胞の異常が原因とされ,大動脈根部の拡大,冠動脈開口部異常,大動脈縮窄症,動脈管開存症等の神経堤細胞を発生原基とする部位の異常を合併する.大動脈根部の拡大は中膜結合織の脆弱化を背景とし,進行性の大動脈拡大や解離を生じる.マルファン症候群と同様に若年性の大動脈解離を来す事があり,本症例も組織像で大動脈壁中膜の粘液様変性と菲薄化,陳旧性解離の所見を認めた.2尖弁症例で,大動脈弁に付着する索状物の合併が稀に報告されており,胎生期のバルサルバ洞等の大動脈弁形成期の遺残組織と考えられている.感染性心内膜炎,ランブル疣贅等との鑑別として重要である.本症例でも当初感染性心内膜炎を疑い,血液培養も施行したが陰性で,手術所見でも感染の所見は認めず先天性構造物と考えられた.単一冠動脈は4割程度が先天性心疾患に合併するが,その13%が2尖弁との報告がある.2尖弁症例では弁の形態や機能の評価に加え,大動脈や冠動脈近位部の評価が必要であり,経胸壁エコーによる評価のみならず,経食道心エコーや,MDCTによる評価を併用する必要があると考えられた.
【結語】
バルサルバ洞から上行大動脈にかけての巨大瘤の形成と限局性解離,弁輪拡大による重症大動脈弁閉鎖不全症,大動脈弁尖への索状エコーの付着,単一冠動脈等多彩な大動脈基部病変を合併した先天性2尖弁の症例を経験した.2尖弁と大動脈疾患との関連に関して示唆に富む症例と考えられ文献的考察を加えて報告する.