Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般口演
循環器:薬物治療

(S486)

アントラサイクリン系薬剤誘発性心筋障害の早期検出におけるradial strainの有用性

Utility of radial strain in myocardial damage induced by anthracycline therapy

飯野 貴子1, 渡邊 博之1, 鬼平 聡2, 伊藤 宏1

Takako IINO1, Hiroyuki WATANABE1, Satoshi KIBIRA2, Hiroshi ITO1

1秋田大学大学院医学系研究科循環器内科学, 2きびら内科クリニック内科

1Department of Cadiovascular Medicine, Akita University Graduate School of Medicine, 2Internal Medicine, Kibira Medical Center

キーワード :

【背景】
心毒性をもつことで知られているアントラサイクリン系抗腫瘍薬は,用量依存性に左室駆出率の低下,BNP値の上昇,心筋逸脱酵素の上昇などを引き起こし,心不全を発症する症例もあることが報告されている.近年,2D speckle tracking法を用いることで,局所のストレインを詳細に評価することが可能となった.しかしながら,アントラサイクリン系抗腫瘍薬投与による左室機能低下様式についての詳細な検討はこれまでになされていない.
【目的】
心臓超音波検査(2D speckle tracking法を含む)により,アントラサイクリン系抗腫瘍薬心筋障害の早期指標を見出すこと.
【対象・方法】
当院で悪性腫瘍に対してアントラサイクリン系抗腫瘍薬を投与された21症例(平均年齢56±13歳,男性9例)を対象に,投与前後で心臓超音波検査を施行し,左室機能に関して評価を行った.超音波診断装置は東芝社製Artidaを用いた.投与前の時点で,虚血性心疾患,心筋症,先天性心疾患,高度の弁膜症と診断されている症例,左室駆出率50%未満の症例,心臓手術後の症例,心房細動症例は除外した.
【結果】
投与されたアントラサイクリン系抗腫瘍薬はドキソルビシン(15例,総投与量328±121mg/m2),エピルビシン(6例,総投与量446±261mg/m2)であった.全21症例のうち1例において,投与後の検査施行までの期間に心イベントが発生した(急性心不全による入院).心臓超音波検査所見を投与前,投与後で比較すると,左室駆出率(投与前;69±7 vs 投与後;64±7%),左室拡張末期容積(112±21 vs 102±29 ml),E’ (9.8±3 vs 7.5±2),E/E’ (6.9±2 vs 8.2±2)に有意差を認めなかった.また,抗腫瘍薬投与前後で,2D speckle tracking法を用いて,radial strain(RS)を解析,前壁中隔(AS),前壁(A),側壁(L),後壁(P),下壁(I),下部中隔(IS)の6分画に分けて評価した.投与前後で各分画毎にRS値を比較すると,ASにおいてのみ有意な低下がみられた(投与前;31.9±8.1 vs 投与後;23.2±9.8%, p=0.027).投与後のRS値を他の分画と比較しても,ASのRS値は有意に小さかった(AS;23.2±9.8,A;31.0±13.7,L;36.4±17.7,P;45.5±17.7,I;36.7±14.6,IS;30.3±15.7%).
【考察】
アントラサイクリン系抗腫瘍薬の心毒性は用量依存性であり,総投与量が,ドキソルビシンで550mg/m2以上,エピルビシンで900mg/m2以上である場合に,心不全発症のリスクが高くなることが報告されている.本研究における平均総投与量は,ドキソルビシン,エピルビシンともに,心不全発症リスクが高まるといわれる量には及んでいなかった.その結果,投与後に左室駆出率は有意な低下がみられず,心不全を発症した症例は1例のみであった.しかしながら,有意に心室中隔のradial strain値は低下していた.すなわち,アントラサイクリン系抗腫瘍薬使用例において心室中隔のRS値は他の指標より早期から低下し,抗腫瘍薬による心毒性を早期に検出できる可能性が示唆された.
【結論】
アントラサイクリン系抗腫瘍薬を投与した症例において,前壁中隔のradial strainが早期に低下し,心毒性の評価において早期検出の指標となり得ることが示唆された.