山本 哲志¹, 田中 秀和², 松本 賢亮², 金子 明弘², 今西 孝充¹, 林 伸英¹, 竹島 泰弘³, 川合 宏哉², 平田 健一², 河野 誠司¹

Tetsushi YAMAMOTO¹, Hidekazu TANAKA², Kensuke MATSUMOTO², Akihiro KENEKO², Takamitsu IMANISHI¹, Nobuhide HAYASHI¹, Yasuhiro TAKESHIMA³, Hiroya KAWAI², Ken-ichi HIRATA², Seiji KAWANO¹

¹神戸大学医学部付属病院検査部, ²神戸大学大学院医学研究科循環器内科学, ³神戸大学大学院医学研究科小児科学分野

¹Department of Clinical Laboratory, Kobe University Hospital, ²Division of Cardiovascular Medicine, Department of Internal Medicine, Kobe University Graduate School of Medicine, ³Department of Pediatrics, Kobe University Graduate School of Medicine

キーワード :

【背景】
機能性僧帽弁閉鎖不全症（FMR）は，左室拡大に伴う乳頭筋の外方変位と左室収縮力の低下による僧帽弁複合体のテザリングによって生じるとされている．Duchenne型筋ジストロフィー（DMD）の進行例では，左室は後壁を中心に高度なリモデリングを生じて拡張型心筋症様の変化を来たすため，しばしばFMRを合併する．しかしながら，DMD患者における左室リモデリングの形態は，拡張型心筋症や虚血性心疾患とは異なるため，DMD患者におけるFMR発生因子のメカニズムに関しては依然明らかにされていない．今回我々は左室拡大を呈したDMD症例を対象に，合併するFMRとその発生に関連する因子について検討した．
【方法】
当院で遺伝子検査にてDMDと確定した症例のうち，左室拡張末期径が50mm以上と拡大を呈した22例（17.5±5.6歳）を対象とした．全例に経胸壁心エコー図検査を施行し，左室径，左房径，左室駆出率，左房容積を計測した．FMRの重症度評価としては傍胸骨左室長軸像より僧帽弁逆流のvena contractaを計測し，米国心エコー図学会のガイドラインに基づき，3mm未満をmild，3-7mmをmoderate，7mm以上をsevereと定義した．僧帽弁複合体のFMRに関与する指標として，僧帽弁輪径，tenting area，tenting height，僧帽弁輪部と前尖のなす角度（ALA），僧帽弁輪部と後尖のなす角度（PLA）を計測した．体格差を考慮し比較検討には体表面積で除した値を用いた．
【結果】
DMD患者の22例中11例にFMR を認め，5例がmild，2例がmoderate，4例がsevereであった．FMRを有する群はFMRを認めない群に比して，拡張末期および収縮末期左室径，tenting area，tenting height，僧帽弁輪径が有意に大きかったが，両群のPLA，ALAには有意差を認めなかった．vena contractaと僧帽弁輪径，拡張末期および収縮末期左室径，左室駆出率，左房容積，PLA，tenting area，tenting heightには有意な相関関係を認め（全てp＜0.05），多変量解析では僧帽弁輪径のみがvena contractaの独立した規定因子であった（Adjusted R-squared=0.8893，p=0.0003）．また，心不全入院と総死亡をエンドポイントとしたカプランマイヤー生存分析ではmoderate以上のFMRを有する6例は有意に予後が悪かった（log-rank p=0.007）．
【結語】
左室拡大を呈したDMD症例においては，FMRに関与する因子は僧帽弁のテザリングの指標でなく僧帽弁輪の拡大であった．また，moderate以上のFMRを有する症例では有意に心血管イベントが発生した．DMDに合併するFMRは，成人の心不全に合併するFMRとは異なった機序で発症している可能性があり，その規定因子を同定することは臨床上有用である．