吉田 尚康¹, 岡本 光師², 難波 浄美³

Naoyasu YOSHIDA¹, Mitsunori OKAMOTO², Kiyomi NANBA³

¹広島県立広島病院臨床研究検査科, ²広島県立広島病院循環器内科, ³広島県立安芸津病院検査科

¹Laboratory Medicine, Hiroshima Prefectural Hiroshima Hospital, ²Cardiology, Hiroshima Prefectural Hiroshima Hospital, ³Laboratory Medicine, Hirosima Prefectural Akitsu Hosiptal

キーワード :

【背景】
Plasma human atrial natriuretic peptide （HANP） は心不全患者において，左房の伸展，拡大で，放出されることが報告されているが，HANP値と左心耳，左房機能との関連の報告は少ない．
【目的】
一過性心房細動患者における，Plasma HANP値と左心耳，左房機能との関係を検討した．
【方法】
対象は，経食道および経胸壁エコー法を施行した一過性心房細動患者38例（年齢 69±9歳，男性32例）である．方法は，経食道心エコー法で，左心耳最大面積，左心耳収縮時血流速度，収縮期肺静脈血流速度，経胸壁組織ドプラ法で左心耳壁運動速度，経胸壁エコー法で，左房径，心房収縮期左室流入血流速度を測定した．HANP値，経食道，経胸壁心エコーは同一日に測定し，HANP値と各パラメーター値との関係を検討した．
【結果】
一過性心房細動患者のHANP値は44±26pg/ml（基準値43pg/ml）とやや高値であった．HANP値と左心耳機能の指標である左心耳壁運動速度，左心耳収縮時血流速度とは有意な負の相関関係を認めたが，左心耳壁運動速度の方が良好な相関を示した（r=−0.63, p＜0.001，r=−0.39, p=0.036）．HANP値は，左房の大きさを示す左房径，左心耳最大面積とは有意な相関はなく，また，左房全体のリザーバー機能を示す収縮期肺静脈血流速度やポンプ機能を示す心房収縮期左室流入血流速度とも有意な相関関係を認めなかった．
【考察および結論】
これまで，HANP値は左房の拡大伸展刺激，左房圧の上昇，左房の頻拍などで増加するとされてきた．今回の検討では，HANP値は一過性心房細動患者で上昇傾向を示していたが，今回症例の一過性心房細動患者の範囲では，HANP値は左房や左心耳の大きさに依存しなかった．また，左房全体のリザーバー機能やポンプ機能とも密な関係は得られなかった．むしろ，左心耳の壁運動の低下時に高値を示すことが明らかになった．すなわち，HANPは，一過性心房細動停止後の心耳機能低下に即座に反応して，うっ血，心不全を防ぐ制御機能を果たしていると考えられた．