Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般口演
循環器:先天性心疾患Ⅰ

(S463)

ダブルスイッチ手術後患者に対する経食道心エコー検査の経験

Experience of the transesophageal echocardiography for the operated patients with double switch method for corrected transposition of great arteries

富松 宏文, 石井 徹子, 杉山 央, 稲井 慶, 中西 敏雄

Hirofumi TOMIMATSU, Tetsuko ISHII, Hisashi SUGIYAMA, Kei INAI, Toshio NAKANISHI

東京女子医科大学循環器小児科

Pediatric Cardiojogy, Tokyo Womens’ Medical University

キーワード :

【背景】
修正大血管転換症(cTGA)は右室が体心室であるため,遠隔期に右室機能不全が問題となる.これを避けるため,心房位と心室位もしくは大血管位の2か所で血流転換を行ういわゆるダブルスイッチ手術(DS)が行われることがある.しかし,cTGAのDS手術後患者も成人期に達してきており,慢性心不全や不整脈など様々な問題が出現することが知られてきている.しかし本症では心臓が胸骨の後方に位置していることがある場合や開胸の影響などにより経胸壁心エコー(TTE)では音響窓が不良で十分な情報が得られないことが多い.そこで経食道心エコー法(TEE)は有用な診断方法と期待されるがDS術後患者に対するTEEの経験についての報告はほとんど見られない.
【目的】
DS後にTEEを施行した経験から,DS後評価におけるTEEでの観察ポイントや限界などを明らかにすること.
【対象】
1995年から2011年の間に当院で試行したDS後の患者11名.男8名.女3名.心臓位置は左胸心4名,右胸心6名,正中心2名.
【方法】
検査データを後方視的に検討し,TEE所見の有用性や限界について検討した.TEEはICUで人工呼吸管理を受けていた1名以外は自発呼吸のもとに鎮静剤の静脈内投与下に探触子を挿入した.使用した探触子は初期の3名はbiplaneを用いたがそれ以後の8名ではmultiplaneを用いた.
【結果】
共通肺静脈還流部の観察は全例で可能であり,開口部のサイズや血流速度の評価も可能であった.上大静脈の還流経路の評価は初期のbiplane探触子を用いた例では上大静脈から心房への経路(SVC経路)を同時に描出することが困難であったが,1名では血流パターンなどから総合的に狭窄の存在を疑う所見を得ることができた.また,multiplane探触子を用いた4名ではSVC経路のほぼ全体を同時に描出することが可能であった.他の4名では経験の少ない初期であったり,気管の影響を受けるなどにより十分な評価はできなかった.下大静脈の還流経路の評価は初期のbiplane探触子を用いた例では下大静脈から心房への経路(IVC経路)を明瞭に描出することが困難であった.multiplane探触子を用いた8名ではIVC経路のほぼ全体を同時に描出することが可能であった.心房間の遺残短絡については欠損孔を直接観察できないもののあったが,末梢静脈からのコントラストエコー法を併用することで診断が可能であった.右室肺動脈経路(RVPA経路)の観察は明瞭に観察できた例はなく,観察できてもごく限られた範囲であった.左室大動脈経路(LVAo経路)の観察は比較的容易で,大動脈弁下狭窄の部位やその形状を詳細に把握することができた.しかし,狭窄部の流速は血流方向とエコービームの方向の関係で計測できなかった.大動脈弁閉鎖不全の評価は全例で可能であり,その方向や大動脈弁の形状の評価も可能であった.有意な合併症は認められなかった.
【考察】
DS術後でも通常のTEE施行方法と同じ方法で安全に検査を施行することができた.共通肺静脈の還流部位やLVAo経路の観察は全例において容易で有用であった.しかし,SVC経路については観察範囲に限界があることがあった.RVPA経路については探触子から遠いこと,人工物による音響陰影の影響や心外導管の石灰化による影響により観察可能な範囲はごく狭い範囲に限られていた.
【結語】
cTGAのDS手術後であってもTEEは通常の方法で安全に施行できた.TTEに比べ明瞭に観察できる部分は多く有用であるが,特にRVPA経路の観察には限界があった.