Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般口演
基礎:その他Ⅲ

(S442)

ソノポレーションにおける細胞膜の修復と膜張力の関連

Relation between cell membrane tension and repair of membrane damaged during sonoporation

田中 裕人, 工藤 信樹

Yuto TANAKA, Nobuki KUDO

北海道大学大学院情報科学研究科生命人間情報科学専攻

Division of Bioengineering and Bioinformatics, Graduate School of Information Science and Technology, Hokkaido University

キーワード :

【目的】
我々はカバーガラス上に培養した細胞を試料としてソノポレーションの導入効率向上に関する検討を行っている.しかし,カバーガラスなどの硬い足場層に培養した細胞に対する導入効率は,実際の生体内でのソノポレーションに比べて低いと考えられる.この原因として,硬い足場層に培養した細胞には比較的大きな膜張力が働いているため,膜損傷の修復能力が低下し,細胞死の頻度が高くなっていることが挙げられる.そこで本研究では,細胞膜張力の違いが膜修復率に与える影響について実験的検討を行った.
【方法】
倒立型顕微鏡のステージ上に置いた水槽の底面に穴を開け,上面にはヒト前立腺がん細胞(PC-3)を培養したカバーガラスを細胞面を下向きに,下面には通常のカバーガラスを貼付けることで観察チャンバを構成した.本検討では,非等張液でチャンバ内部を満たし,細胞の体積を変化させることで膜張力を制御した.膜張力の高い条件ではハンクス緩衝液と1.3 mMのCaCl2溶液を1:1で混合した低張液を,膜張力の低い条件ではハンクス緩衝液50 mlに0.2 gのNaClを加えて作製した高張液をチャンバ溶液として用いた.さらに溶液には,細胞膜の損傷を検出する蛍光色素としてPI (propidium iodide) とLevovistをそれぞれ5 μg/ml,5 mg/mlの濃度で添加した.チャンバに細胞試料を装着してから細胞の体積が十分に変化するまで30分程度待ち,中心周波数1 MHz,最大負圧1.3 MPa,波数10波のパルス超音波を1回照射した.細胞の内部に蛍光が認められた細胞を損傷細胞とし,蛍光が持続的に増大した細胞を死細胞,わずかに増加した後に上昇が止まった細胞を修復細胞として,修復率(修復細胞数/損傷細胞数)を求めた.
【結果および検討】
各条件で修復率を調べた結果をFig. 1に示す.高張液中でソノポレーションを行った場合,他の条件と比べて高い修復率となった.これは,細胞の膜張力が低下したことによって,膜修復能が向上した結果と考えられた.一方,低張液の条件では等張液の条件と有意な差は見られなかった.この原因として,低張液中に存在する膜修復阻害作用を持つMg2+の濃度が他の溶液に比べて低く,膜修復能が向上した可能性がある.今後は等張液中で細胞膜張力を変化させることを検討していく.なお,本研究の一部は科研費補助金により行われた.