Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般口演
基礎:その他Ⅲ

(S441)

光音響顕微イメージング法によるラット熱傷モデルにおけるアルブミンの動態観測

Photoacoustic microscopic imaging of dynamics of albumin in a rat burn model

角井 泰之1, 佐藤 俊一2, 渡辺 了太1, 川内 聡子2, 齋藤 大蔵3, 芦田 廣2, 寺川 光洋1

Yasuyuki TSUNOI1, Shunichi SATO2, Ryota WATANABE1, Satoko KAWAUCHI2, Daizoh SAITOH3, Hiroshi ASHIDA2, Mitsuhiro TERAKAWA1

1慶應義塾大学大学院理工学研究科総合デザイン工学専攻, 2防衛医科大学校防衛医学研究センター情報システム研究部門, 3防衛医科大学校防衛医学研究センター外傷研究部門

1School of Integrated Design Engineering, Keio University Graduate School of Science and Technology, 2Division of Biomedical Information Sciences, National Defense Medical College Research Institute, 3Division of Basic Traumatology, National Defense Medical College Research Institute

キーワード :

【目的】
熱傷を受傷した場合,受傷組織およびその周辺における血管壁透過性亢進により血管から血漿蛋白が漏出し,体液動態が大きく変動する.しかし組織中の血漿蛋白をリアルタイムに計測できる技術が確立されていないことから,その時空間的挙動は明らかにされていない.著者らは同計測のため光音響イメージング法に着目した.これは生体に照射した微弱なパルス光を組織中の光吸収物質が吸収して発生する超音波(光音響波)を検出することで,その深さ分布を画像化できる技術である.本研究では,血漿蛋白の代表であるアルブミンのin vivoにおける詳細な時空間分布を画像化するため,光ファイバー照射型光音響顕微イメージング装置を開発した.
【対象と方法】
アルブミンは可視域および近赤外域に強い吸収ピークを持たないため,血中でアルブンミンと強固に結合し,波長610 nmにおいて強い吸収ピークを持つエバンスブルー(EB)を分子マーカーとして使用した.イメージング装置はin vivoにおける使用を考慮して小型・軽量化に重点を置き,光ファイバー照射方式を導入した.音響レンズを装着した超音波センサー(中心周波数:30 MHz)の四方に照射用石英ファイバーを配置し,音響的損失の小さいエンジニアリングプラスチック製のスペーサーを介して組織に接触させる構造とした.内径100マイクロメートルのシリコンチューブに墨汁を封入した模擬微小血管を,等価散乱係数が生体組織に近い2%イントラリピッド溶液中に配置し,センサーを走査させて水平方向の感度分布を評価した.励起光源には光パラメトリック発振器(パルス幅:6 ns)を使用し,波長532 nmの出力パルス光をビームスプリッターにより4分割し,上記ファイバーにそれぞれ結合させた.アルブミン分布画像化のためのモデルとしてSDラット背部に広範囲深Ⅱ度熱傷を作製し,熱傷,非熱傷,それらの境界部のそれぞれに関心領域を設定した.最初にヘモグロビンの吸収波長である532 nmを用いて受傷1時間後における皮膚組織中の血管分布の光音響イメージングを実施し,続いて受傷1.5時間後に同ラットの尾静脈にEBを投与し,その後波長610 nmにおいてアルブミンの分布を経時的に画像化した.
【結果と考察】
直径100マイクロメートルの模擬血管に対する本光音響顕微イメージング装置の水平方向の感度分布の拡がりは約150マイクロメートルであり,同音響レンズの理論的な集束径とほぼ一致した.ラット皮膚組織の血管のイメージングの結果,非熱傷領域では血液由来の信号が皮膚全層より受信されたのに対し,熱傷領域では皮膚深部のみから受信された.これは,熱傷領域における皮膚浅部の血流遮断を示すものと考えられる.一方,アルブミン由来の信号は非熱傷領域ではほとんど観測されなかったため,同領域において血管壁透過性亢進作用が生じなかったことが示された.熱傷領域ではEB投与直後から皮膚深部において同信号が観測され,時間経過とともに振幅は増大し観測領域は浅部方向へ移動した.これは,血流遮断領域よりも深い血管の透過性亢進作用によるアルブミンの漏出と皮膚組織中での拡散によるものと考えられる.また,熱傷領域の血流遮断部位と非熱傷部位が接する境界部では,血中のアルブミンが効率的に漏出したことを示す強い光音響信号が得られた.
【結論】
組織中のアルブミンの動態観測を目的に,光ファイバー照射型光音響顕微イメージング装置を開発し,ラット熱傷モデルを用いた皮膚組織中におけるアルブミン分布の観測を実施した.その結果,これまでに計測例のないアルブミンの詳細な動態を明らかにすることができた.