Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般口演
基礎:音場およびファントム

(S431)

製造から8年経過した旧ファントムと新ファントムの比較

Comparative study on old and new urethane elastomer phantoms that separated 8 years after manufacture

荒川 磨里1, 五十嵐 知文2, 笹岡 浩二1, 柴田 さとみ1, 名取 博2

Mari ARAKAWA1, Tomofumi IGARASHI2, Kouji SASAOKA1, Satomi SHIBATA1, Hiroshi NATORI2

1社会医療法人恵和会西岡病院臨床検査科, 2社会医療法人恵和会西岡病院内科

1Department of Medical Laboratory, Keiwakai Nisioka Hospital, 2Internal Medicine, Keiwakai Nisioka Hospital

キーワード :

【背景と目的】
超音波診断装置の精度管理用ファントムは経年変化するが,ウレタン樹脂ファントムはゼラチン・寒天ファントムに比べて変化が小さく5年以上の寿命があるとされている.今回,製造から8年経過したファントムと新しく製造されたファントムを比較検討したので報告する.
【対象と方法】
ファントムは2004年(旧ファントム)と2012年(新ファントム)製造のウレタンエラストマー樹脂系ベースのMulti Purpose Phantomを用いた.このファントムは微細点状エコーを呈するフィラーを添加した基材にナイロンストリングによる二点識別targets,格子状targets,およびグレイスケールtargets等を配置したものである.基材の樹脂とフィラーは,8年前と同一製造ロットの原材料は経時的な変化を起こすため,新たな製造ロットの原材料を使用した.両者の基材の音速は,旧ファントムが1440m/s,新ファントムが1410m/sとなっている.超音波診断装置は日立アロカメディカル製 Prosound α7,Prosound 4000および東芝メディカル製Aplio 500の3機種を用いた.探触子は中心周波数3.5MHzのコンベックス型,7.0MHz,7.5MHz,8.5MHzのリニア型を用いた.新旧ファントムの外観を観察し,診断装置により二点識別targetsで空間分解能,格子状targetsで距離計測,グレイスケールtargetsでヒストグラム分析を行った.分解能はビームフォーマーの音速設定を基材の音速に合わせて検討した.
【結果】
基材の樹脂表面の色調が新ファントムは淡黄色,旧ファントムは8年の間に淡黄色から褐色に変っていた.樹脂の体積,形状の変化は見られなかった.超音波診断装置を用いて同一条件で各targetsを撮影したところ,新ファントムが旧ファントムに比べフィラーによる点状エコーの明るさが全体的に暗く,特に深部で暗かった.二点識別targetsによる深さ方向で見た距離分解能は両者に差はなく,方位方向の分解能も同様の結果であった.格子状targetsの深さ方向の距離計測では新ファントムが旧ファントムに比べ各計測点において距離がわずかに長かった.方位方向の距離計測では両者に差はなかった.グレイスケールtargetsのヒストグラム分析では両者共にスケールを形成していたが,新ファントムが旧ファントムに比べ各スケールにおいて明るさが暗かった.
【考察】
新旧ファントムにフィラーによる点状エコーの明るさとグレイスケールtargetsの明るさの差が見られたのは,フィラーの輝度と基材の減衰の差によると考えている.二点識別targetsの微細な分解能の観察にはビームフォーマーの音速設定を最適にして観察する必要があった.深さ方向の距離計測における差は,音速の差によるものと考えられる.音速が関与しない方位方向の距離計測では差がなかった.製造から8年間経過したファントムと新たに製造されたファントムの間の差は,原材料の製造ロットの違いによる音速や減衰の差であると考えられる.ウレタン樹脂ファントムは超音波診断装置による空間分解能,格子状targets,グレイスケールtargetsの観察については8年間の使用に耐えうると考えている.今後,ファントム基材の音速と減衰の調整について更なる検討を続けたい.