Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般口演
基礎:歪みイメージング

(S426)

音響放射圧により人工皮膚に生じた微小変位の計測

Measurement of micro displacement of artificial skin generated by acoustic radiation force

長岡 亮1, 和泉 拓哉1, 小林 和人2, 西條 芳文1

Ryo NAGAOKA1, Takuya IZUMI1, Kazuto KOBAYASHI2, Yoshifumi SAIJO1

1東北大学大学院医工学研究科医工学専攻, 2本多電子株式会社研究部

1Biomedical Engineering, Tohoku University, 2Research and Development Division, Honda Electronics Co.,Ltd.

キーワード :

【目的】
超高齢化社会の到来により国民のエイジングへの関心が高まっている.脳・毛髪・皮膚は三大エイジングと呼ばれ,特に皮膚のエイジングケアは化粧品,美容手術などの巨大市場を形成するに至っている.しわやたるみは皮膚の粘弾性の経年的変化によるもので,真皮中のコラーゲンやエラスチンの量や質に強く関連すると考えられている.したがって,皮膚の粘弾性の定量的評価法の確立が強く望まれており,特に真皮の粘弾性を単独で計測する技術は皮膚のエイジングの本質を計測する手法として非常に有益である.本研究では,音響放射圧により生じた人工皮膚の変位を,高周波数超音波を用いて計測し,計測された変位と生体組織の粘弾性モデルであるフォークトモデルに基づいて粘弾性を推定することを研究目的とする.
【方法】
計測対象とした人工皮膚は表層からシリコン層・ガーゼメッシュ層・コラーゲン層の3層構造を有している.音響放射圧照射には中心周波数1 MHz,開口直径30 mm,焦点位置15 mmの半球面形状のPZTトランスデューサを使用し,1 msec間隔で20 V,100バースト波を計測対象に照射することで変位を生じさせた.本条件において焦点位置の最大音圧は0.6 MPaであり,数μmの変位を生じさせるのに十分であった.変位計測には中心周波数100 MHz,開口直径4 mmの凹面PVDFトランスデューサを用いた.繰り返し周波数2 kHzで音響放射圧と同期して計測用パルスを入力し,サンプリング周波数1 GHzで反射波を取得した.音響放射圧照射用トランスデューサの中心に穴を開け,この穴に計測用トランスデューサを挿入することによって同軸での計測を行った.計測した変位をフォークトモデルにフィッティングすることで層ごとの相対的な粘弾性の推定を行った.この際にPVDFトランスデューサを2次元スキャンし,人工皮膚のBモード画像を構築することで計測ラインを設定した.
【結果および考察】
高周波数超音波のRF信号の位相から各層の変位を推定した.シリコン層・ガーゼメッシュ層・コラーゲン層における平均変位はそれぞれ2.90 μm,0.89 μm,5.51 μmと推定された.推定された変位から得た弾性率の平均値はそれぞれ3.45 x 105 m-1,1.12 x 106 m-1,1.81 x 105 m-1,粘性値の平均値は3.92 x 103 s/m,1.49 x 103 s/m,5.93 x 103 s/mであった.弾性率はガーゼメッシュ層で最大となり,人工皮膚の3層構造において最も硬い層であることが示された.粘性値はコラーゲン層で最大となった.コラーゲン層は抗原性を除去したアテロコラーゲンから構成され,外力に対して緩衝材として重要な役割があるため,粘性が高くなったものと考えられ,人工皮膚の構造と一致した.
【結論】
音響放射圧により人工皮膚に生じた変位にフォークトモデルを適用して粘弾性推定を行った.人工皮膚の各層ごとに粘弾性特性を評価することが可能であった.本研究成果は,非侵襲的であるため生体に適用が可能であり,層構造を有するヒト皮膚の粘弾性特性によるエイジング評価が可能であると考えられた.