Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般口演
基礎:歪みイメージング

(S425)

音響放射圧による生体内発生変位の数値解析

Numerical Analysis of Tissue Displacement Induced by Acoustic Radiation Pressure

田原 麻梨江, 吉川 秀樹, 浅見 玲衣, 田中 宏樹, 橋場 邦夫

Marie TABARU, Hideki YOSHIKAWA, Rei ASAMI, Hiroki TANAKA, Kunio HASHIBA

日立製作所中央研究所

CRL, Hitachi Ltd.

キーワード :

【背景・目的】
近年,音響放射圧によってせん断波を発生させ,せん断波の速度を測定することによって生体の弾性特性を評価する手法が臨床的に使われ始めている.一方,この手法では術者の手技や生体組織構造などに依存する測定誤差が報告されている.組織構造に関しては,減衰・拡散・反射等が,放射圧によって生成される変位量やせん断波の伝搬に影響を及ぼすと考えられる.我々は,放射圧発生に関するメカニズムについて検討し,吸収のある等方性媒質では,レイノルズ応力が放射圧発生の支配的な因子であるという知見を得ている.また,この知見をもとに放射圧分布と変位生成量との関係について検討してきた[1].
本報告では,本手法の肝臓への適用を想定して,脂肪と肝臓からなる2層構造モデルで数値解析を行い,屈折や反射が放射圧や変位量に及ぼす影響について検討する.
【方法】
有限要素解析ソフト(PZFlex®)を用いて数値解析を行った.脂肪のパラメータの厚みlと縦波速度vの異なる4つの数値モデル((a) l=10 mm, v=1500 m/s, (b) l=60 mm, v=1500 m/s, (c) l=10 mm, v=1400 m/s, (d) l=60 mm, v=1400 m/s)を作成した.ここで,肝臓の吸収係数を0.7 dB/MHz/cm,縦波速度を1500 m/sとし,また,脂肪の吸収係数を0.5 dB/MHz/cmとした.密度(1000 kg/m3)とせん断波速度(1 m/s)は両組織で同じ値を用いた.各モデルに対し,開口径30 mm, 焦点距離60 mm, 周波数3.5 MHzの正弦波を0.5 ms連続照射したときの放射圧及び変位量を計算した.正弦波発生のための音圧条件は,肝臓のみのモデルで計算した場合にMI値が1.9となるように設定した.
【結果・考察】
最大放射圧は (a) 270, (b) 660 (c) 250, (d) 480 N/m2,最大変位量は(a) 1.6, (b) 3.7, (c) 1.4, (d) 3.8 μmとなった.(a)(b)のように縦波速度と密度の積で表わされる比音響インピーダンスが各層で等しい場合には,放射圧及び変位量は,焦点領域に至る生体吸収のみが支配的であった.一方,比音響インピーダンスが各層で異なる(c)(d)の場合には,屈折による波面拡散が生じた.脂肪の厚みが10 mm,すなわち,組織境界が焦域より手前にある(b)と(d)を比較すると,拡散のある(d)では(b)よりも放射圧及び変位量が低下した.また,組織境界が焦域に存在する(b)と(d)を比較すると,(d)の最大放射圧は(b)よりも小さいにも関わらず,(d)では境界上で(c)よりも大きな局所的な変位が現れた.局所的な変位の要因は,境界上で反射し,境界前後での運動エネルギー密度に差が生じたためである.
【結論】
拡散や反射が放射圧と変位に及ぼす影響について数値的に検討した.変位量の低下はせん断波の検出感度に影響を及ぼす可能性があり,また,放射圧の空間的な乱れはせん断波の波面乱れを招きせん断波推定精度に影響を及ぼす可能性がある.今後,せん断波の伝搬まで含めた検討を行うことにより本手法全体の物理メカニズムを明らかにする.
[1]田原他,音響放射圧による生体内変位の発生メカニズムに関する理論的検討,日本音響学会2013年春季研究発表会(予定)