増田 佳純, 浅沼 俊彦, 櫻井 大輔, 郡山 晃, 中谷 敏

Kasumi MASUDA, Toshihiko ASANUMA, Daisuke SAKURAI, Hikaru KORIYAMA, Satoshi NAKATANI

大阪大学医学系研究科保健学専攻機能診断科学講座

Division of Functional Diagnostics, Osaka University Graduate School of Medicine

キーワード :

【背景】
Post-systolic shortening （PSS）は心筋虚血の鋭敏な指標であり，虚血改善後もしばらく残存するため，虚血メモリー評価に有用と考えられる．PSSの機序には，1） 虚血領域と非虚血領域間の心筋収縮の差から生じる反動（recoil）運動と2） 虚血領域の収縮開始の遅延により生じる運動との2つの説が提唱されているが，虚血改善後にPSSがなぜ残存するかは不明である．残存PSSの機序の解明は，より効果的な虚血メモリー評価法の確立のために重要と思われる．本研究では，虚血再灌流後に残存するPSSが反動運動から生じているのか，収縮開始の遅延から生じているのかを検討した．
【方法】
麻酔開胸犬8頭において，左冠動脈回旋枝を2分間閉塞後，再灌流した．GE Vivid E9を用い，閉塞前，閉塞時，再灌流5，10，15，30分後に左室短軸像を取得し，スペックルトラッキング法にて，circumferential及びradialストレインを解析した．ストレイン波形から，虚血領域と非虚血領域の収縮末期ストレイン（εAVC），反動運動の指標として虚血領域と非虚血領域のεAVCの差（ΔεAVC），収縮開始遅延の指標としてQRS開始から初期長を超えて収縮を開始するまでの時間（prestretch time），およびPSSの指標としてPSSストレイン（εPSS）とPSSのピークまでの時間（time to peak PSS）が計測された．
【結果】
虚血領域において，εAVCは閉塞時に低値を示したが，再灌流後速やかに回復した．一方，εPSSは閉塞時に高値を示し，再灌流後もしばらくは閉塞前のレベルまで回復しなかった．Circumferentialストレインにおいて，再灌流後のεPSSとΔεAVCには有意な相関は得られなかったが（p=0.12），εPSSとprestretch timeには有意な相関が認められた（r=0.57, p=0.0001）．また，time to peak PSSとprestretch timeにも有意な相関が認められた（r=0.35, p=0.027）．Radialストレインにおいても同様な結果が示された．
【結語】
再灌流後のPSSの指標はΔεAVCとは相関が得られなかったが，prestretch timeと相関し，虚血メモリーとして残存するPSSの機序として，虚血心筋における収縮開始遅延の関与が示唆された．