英文誌(2004-)
奨励賞演題:基礎 奨励賞
(S405)
モードベクトル合成による不均質散乱補償能を有する適応ビームフォーマ
Aberration compensated adaptive beamformer using mode vector compounding
池田 貞一郎, 高野 慎太, 田原 麻梨江, 鱒沢 裕
Teiichiro IKEDA, Shinta TAKANO, Marie TABARU, Hirhoshi MASUZAWA
株式会社日立製作所中央研究所
Central Research Laboratory, Hitachi Ltd.
キーワード :
【背景】
近年,MVDR(Minimum Variance Distortionless Response)やAPES(Amplitude and Phase Estimation)などの最小分散アルゴリズムに基づいた適応ビームフォーマが報告されている.適応ビームフォーマは開口径に支配されない受信点拡がり関数を実現するため,点像の高解像度化や空間不要応答の低減などB像画質の改善が期待される.一方で,一部の適応ビームフォーマでは信号が単一のモード方向(アレイ正面方向等)から到来することを仮定している.そのため,生体内での媒質の不均質性によって所望信号が正面方向から偏向して到来する場合や,所望信号と強い相関を持った多重経路反射波が受信信号中に混在する場合には,その性能が限定される.
【目的】
本研究では,最小分散型の適応ビームフォーマに対し,受信合焦のモード方向以外の到来方向の信号を合成し,相関性応答の抑制を図ったモードベクトル合成(Mode Vector Compound;MVC)法を提案する.不均質散乱の影響を考慮した模擬RF信号を用いて画像シミュレーションを行い,本手法による画質改善能力の検証を行う.
【手法】
模擬RF信号として,連続体媒質中に点散乱体が配置された数値モデル中の音波伝搬を計算し,受信素子毎の受信音圧を得た.また,音速c =1540 m/s の背景領域中に位置・サイズともに無作為な分布を持つ低音速領域(c=1450 m/s)を配置し,生体不均質を模擬した.これらのRFデータに対して遅延加算(Delay and Sum;DAS),APES,およびMVC法を施したAPESのそれぞれを用いたB像を生成し,提案手法の効果を検証した.
【結果と考察】
結果の一例として二点散乱体のB像を図に示す.不均質散乱がある場合のDAS,APES,およびMVC法を用いた場合のAPESの結果となっている(左図:点像,右図:アジマス方向輝度プロファイル).APESによる点像の乱れの抑制が限定的である一方で,MVC法を用いた場合のAPESでは,不均質による像の歪みが顕著に改善されている.二点の点像が本来の位置に高い分解能(不均質無しのDAS比2倍)で描出されており,提案手法が適応ビームフォーマに対して不均質散乱の影響の補償能を付与し,B像の画質改善を可能とすることを確認した.