金澤 真作¹, 三塚 幸夫², 緒方 秀昭¹

Shinsaku KANAZAWA¹, Yukio MITSUZUKA², Hideaki OGATA¹

¹東邦大学医療センター大森病院乳腺・内分泌外科, ²東邦大学医療センター大森病院臨床生理機能検査部

¹Department of Breast and Endocrine Surgery, Toho University Omori Medical Center, ²Department of Clinical Functional Physiology, Toho University Omori Medical Center

キーワード :

腫瘍血管新生は，固形腫瘍の成長，進展，転移の過程に重要な役割を果たしている．血管内皮の免疫組織学的検討で腫瘍血管新生は乳癌においても独立した予後因子であることが報告されており，血管内皮増殖因子（VEGF）の発現が腫瘍血管新生と相関して乳癌の成長，進展や転移などに関わっていることも知られている．VEGFを標的とした分子標的薬は乳癌でも使用可能となっている．また腫瘍血管新生は，薬物療法の効果判定や効果予測にも有用となる可能性も示唆されている．乳癌の画像検査に目を向けるとCTやMRIは造影検査が中心となっており，マンモグラフィにおいても造影マンモグラフィの検討が始まっている．いずれも乳癌の腫瘍血管新生を観察することを目的としている．一方，超音波はBモードによる形態診断が中心であるが，腫瘤の良悪性診断精度が高く被曝などの副作用もないため頻回に検査を行うことが可能で一般に広く用いられている．超音波ドプラ法により血流情報を付加した診断も可能ではあるが，その精度は低く確立された診断基準もない．これまでも乳房造影超音波では，第1世代超音波造影剤レボビストが使用可能でありドプラ信号の増強による血流信号の観察は可能であったが，超音波を断続的に送信する必要があるためリアルタイム性に欠け実診療に用いられていない．これまでは，肝腫瘤性病変にのみに適応であった第2世代超音波造影剤ソナゾイドが乳房腫瘤性病変にも適応拡大となった．肝腫瘤性病変に対しては，持続的な造影効果を示し肝腫瘍の鑑別診断ならびに肝小病変の検出に有用であり，造影CT 検査と同等の診断能を示した．乳房腫瘤性病変においては，適応拡大の申請を目的として行われた第2・3相臨床試験の結果から良悪性鑑別におけるソナゾイド造影超音波のBモード超音波や造影MRI対する優越性が示唆されている．腫瘤内部の微細な血流情報が観察可能であり，乳癌広がり診断や術前薬物療法の効果判定などへの応用も検討されている．乳癌術前薬物療法の効果判定には造影MRIが用いられることが多く，局所再発や領域リンパ節再発などMRIで観察が困難な小さな病変の治療効果判定にはBモード超音波が用いられることが多い．造影MRIでは治療の効果で出血を起した組織や線維に置換された組織も造影効果のある腫瘤として描出してしまい，薬物療法の効果を過小評価してしまうことが知られている．また超音波に比べると時間空間分解能が低いため，高度に縮小した病変を描出することも困難となる．Bモード超音波も同様に出血や線維に置換された組織を腫瘤として描出するため，薬物療法の効果を過小評価する場合がある．ソナゾイドでは治療による腫瘍血管の減少が観察可能であり，単純な腫瘍径の縮小と比較してより正確に治療効果を判定すると考えられる．造影超音波ではソナゾイドの物理的な特性と薬物療法による生体側の変化および超音波の高い時間空間分解能の3つを診断に利用しており，より正確な薬物療法の効果判定が可能であると考えている．我々は，ソナゾイドの適応拡大以前から院内倫理委員会の承認のもと被験者から文書によるインフォームドコンセントを得て乳癌術前治療の経過観察に造影超音波を用いてきた．今回これらの検査結果を後ろ向きに解析し，乳癌術前薬物療法の効果判定におけるソナゾイド造影超音波有用性を検討した．