Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

特別プログラム 産婦人科
パネルディスカッション20 <診療に活かす> 胎児精査の極意

(S329)

胎児腹部異常の精査

Detailed examination of fetal abdominal anomaly

住江 正大

Masahiro SUMIE

国立成育医療研究センター周産期センター

National Center for Child Health and Development, Perinatal Care Center

キーワード :

腹部には様々な臓器が存在し,胎児期の腹部異常として認識される疾患は多岐にわたるため,その鑑別診断には比較的苦慮することも少なくない.正常胎児の腹腔内でlow echoicな嚢胞として認識される構造物は胃胞,胆嚢,膀胱,血管のみである.したがってそれ以外に嚢胞が存在する場合はスクリーニング陽性として精査を行う対象となる.腹部嚢胞の精査を行うにあたり重要なことの一つは,嚢胞と腹部臓器の位置関係である.また嚢胞の数や内部の性状が診断の手がかりとかることもある.また胃胞の位置が右側にある場合,胃胞が見えにくい場合も同様である.胃胞の位置が右側にある場合は内臓錯位症候群を念頭において全身の検索が必要となる.また特に上部消化管閉鎖は染色体異常を合併することも多く,これも腹部以外の精査を行う対象となる.それ以外にも,羊水量の異常が腹部疾患の発見の契機となることも珍しくない.以下に主な腹部異常とその鑑別診断において重要な所見を列挙する.
1.腹壁の異常腹壁外に腹部臓器の脱出を認める場合,臍帯ヘルニアと腹壁破裂の鑑別が重要である.臍帯ヘルニアは臍帯が腹壁から連続する嚢内に収まっていることが特徴である.一方で腹壁破裂では通常腹壁に正常に付着した臍帯の右側に欠損がある.
2.消化管の異常消化管は食道から肛門に至るまで1本の管であるため,ある部位に通過障害があればその手前に羊水が貯留して拡張する.その拡張した部位が嚢胞として超音波で認識されるため,これをもとに閉塞部位の推定を行う.
3.泌尿器系の異常消化管と同様に尿路は腎臓(腎盂),尿管,膀胱,尿道と連続するため,いずれかの部位に閉塞ないし狭窄があればその手前に尿が貯留して拡張を来す.また腎実質に異常所見を来す多嚢胞性異形成腎(MCDK)や多発性嚢胞腎(PKD)なども比較的頻度が高く,日常診療でもよく遭遇する疾患である.また腎機能と羊水量は相関するため,羊水過少を契機に泌尿器系異常が発見されることも多い.
4.その他の腹部異常超音波で腹部嚢胞として認識される疾患で,上記以外では卵巣嚢腫,総胆管嚢腫,腸間膜嚢胞が比較的頻度が高い.総胆管嚢腫は部位が肝臓の下であり,肝内の拡張した胆管につながっているため診断は比較的容易であるが,腸管膜嚢胞は腹腔内のどの部位にも発生する上に,卵巣嚢腫も胎児期には骨盤に対して腫瘍が大きいことが多く,そのため上腹部にまで存在することもあり,これらのことが鑑別を難しくしている.また腹部において充実性の腫瘤像として捉えられる疾患としては,神経芽細胞腫や仙尾部奇形腫瘍が多い.それぞれ好発部位が副腎,骨盤内であることから,やはり位置関係が診断において重要となる.上記の比較的頻度の高い疾患以外にも腹部臓器には様々な先天異常を来すことがある.本講演では当センターにおける過去の胎児診断症例をもとに,腹部疾患精査の進め方について分かりやすく解説したい.