Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

特別プログラム 産婦人科
パネルディスカッション4 <診療に活かす> 印象に残る症例:百聞は一見にしかず

(S319)

胎児異所性心房頻拍を長期管理しえた1例

A case of fetal ectopic atrial tachycardia

三好 剛一, 根木 玲子, 桂木 真司, 吉松 淳

Takekazu MIYOSHI, Reiko NEKI, Shinji KATSURAGI, Jun YOSHIMATSU

国立循環器病研究センター周産期・婦人科

Department of Perinatology and Gynecology, National Cerebral and Cardiovascular Center

キーワード :

【症例】
27歳,初産婦,自然妊娠後,近医で妊婦健診中,妊娠25週に180 bpm台の胎児頻拍を指摘されていた.27週5日他院で胎児頻脈と診断され当科へ紹介初診.エコー上,腹水・心嚢液の貯留,高度の三尖弁閉鎖不全,右心拡大,右心機能低下が疑われた.Dモード(上大静脈−上行大動脈同時血流波形)で,1:1伝導,190bpm,long VAタイプの上室性頻拍と診断した.胎児心拍数モニター上,130,190,240 bpmの3パターンが確認されたが,いずれも正常心房リズムではなく異所性心房頻拍が疑われた.240 bpmの頻拍の頻度の増加とともに腹水も増加したため,28週6日よりジゴキシン投与を開始,血中濃度は1.0ng/ml前後で維持した.その後も頻拍発作は増加,それに伴い胎児水腫および羊水過多が進行してきたため,30週0日よりソタロール160mg/日併用を開始.各パターンでの心拍数のベースは漸減したが,胎児水腫は改善なく30週5日よりソタロール240mg/日に増量した.200 bpmを超える頻拍発作は消失,150-160 bpmが主体となり胎児水腫も徐々に改善した.32週頃より105 bpmと徐脈傾向,1度房室ブロックおよびPVCが頻発するようになりソタロールを漸減.三尖弁逆流は高度のままであったが,34週には胎児水腫はほぼ消失した.ジゴキシン,ソタロールの減量・調整を試みたが胎内での微細なコントロールは困難であること,未熟性が問題となる時期は過ぎつつあること,胎児水腫が消失して全身状態の改善が得られていること,三尖弁異形成に伴う三尖弁逆流に関しては出生により軽減が期待されることなどから,新生児治療へ切り替える方針とした.35週4日に選択的帝王切開術を施行.2028g女児,APS 8点(1分)/9点(5分).出生後の心電図では,正常心房リズムはなく,全てが異所性心房リズムと考えられた.最終的にはジゴキシンおよびメトプロロール内服によりレートコントロールを行ないながら,生後2ヶ月で退院となった.
【考察】
妊娠25週に発症した胎児異所性心房頻拍に対して,胎児治療により胎内で長期管理が可能であった.本症例では,三尖弁異形成に伴う三尖弁逆流による右房機能不全が不整脈の原因と考えられた.胎児治療には限界があり,新生児治療へ移行する適切な時期を総合的に判断することが重要である.