Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

特別プログラム 産婦人科
シンポジウム6 <科学に活かす> 超音波の新技術・ソフトウェアを使いこなす

(S313)

位相差トラッキング法の胎児領域への応用

Physiological assessment of fetal cardiovascular system using phased-tracking method

宮下 進1, 2, 小澤 克典1, 2, 室本 仁1, 2, 室月 淳1, 2, 長谷川 英之3, 金井 浩3

Susumu MIYASHITA1, 2, Katsusuke OZAWA1, 2, Jin MUROMOTO1, 2, Jun MUROTSUKI1, 2, Hideyuki HASEGAWA3, Hiroshi KANAI3

1宮城県立こども病院産科, 2東北大学大学院先進発達医学講座胎児医学分野, 3東北大学大学院工学系研究科電子工学専攻

1Department of Maternal and Fetal Medicine, Miyagi Children’s Hospital, 2Department of Advanced Fetal and Developmental Medicine, Graduate School of Medicine, Tohoku University, 3Department of Electronic Engineering, Graduate School of Engineering, Tohoku University

キーワード :

【概要】
位相差トラッキング法(phased-tracking method)は金井らにより開発された,微細な運動計測を可能とする超音波モダリティである.関心点の運動を計測するためには,受信信号のフレーム間の伝播遅延時間の変化を検出する必要がある.中心送信周波数を5 MHzと仮定すると,受信信号の波長は300 μm程度であり,この波長未満の遅延時間の変化(変位)をBモード像やMモード像での振幅情報のみから検出することは困難である.位相差トラッキング法では受信した超音波RF信号の直交検波信号に相関法を適用し,受信信号の位相偏移を推定することで受信信号の遅延時間の変化を高精度に検出し,関心点の微細な運動計測と追跡が可能となる.波長の制限を受けないため,速度 0.1 mm/s,積分距離 0.2 μm程度の高精度での計測が可能である.非侵襲的な高精度計測という利点を活かし,成人領域においては血管壁の微小運動速度計測による動脈壁の弾性特性の推定などに応用されている.今後は胎児においても臨床応用が期待される.
【データ取得と解析】
超音波RF信号を出力可能となるようにI/Fを拡張した超音波診断装置を用いる.Bモードにて対象を描出し,計測するビーム方向をMモードをガイドとして設定する.RF信号データはこの一方向,あるいは同時多方向の取得が可能である.同時多方向のデータ取得の際には高時間分解能かつ広い範囲でのビーム走査方向のデータを得るために,スパーススキャンと呼ぶ高フレームレートのモードを用いる.データ取得時間はI/Fの性能にもよるが約2-3秒で連続した5-8心周期のRF信号が得られる.現状ではこれをワークステーションに転送しオフライン解析処理を行っている.複数関心点のトラッキングを行うことで,各点の運動速度,関心点間の速度差や積分による変位を解析することができる.
【胎児への応用】
Bモードで描出できる条件であれば位相差トラッキング法による計測が可能である.我々は病的胎児および胎児治療前後の循環評価のひとつとして以下の評価を試みている.・下行大動脈径および下大静脈径: 胎児横隔膜レベルで血管軸に直交するようにビーム方向を設定しRF信号データを取得する.血管内腔と血管壁の境界(近位側および遠位側の2点)でトラッキングを行い,心周期に対応した血管径の変化速度および血管径の微少変動を得る.下行大動脈径の微小変動は脈圧と相関し,下大静脈径変動からは静脈波解析が可能と考えられる.・心室: 四腔断面像で心室中隔に直行するビーム方向でRF信号データを取得する.心室内腔と心室自由壁,心室中隔の境界などでトラッキングを行うと計測点でのビーム方向の運動速度が得られ,高精度でのストレインレートや内径短縮率の解析が可能である.心筋の内膜側と外膜側でトラッキングを行い心筋厚み変化を得れば,心筋機能や心室後負荷の解析が可能と考えられる.・脈波伝導速度: 胎児下行大動脈を軸方向に描出し,スパースキャンにより多方向からのRF信号データを同時に取得する.動脈壁上の異なる2点間の距離および壁運動遅延時間から脈波伝導速度を解析することができる.
【まとめ】
位相差トラッキング法の応用により,胎児では従来は得られなかった血圧,静脈波,心筋機能,脈波伝導などに相当する循環生理学的指標が得られ,臨床における有用性がきわめて大きい.現状ではデータ解析はオフラインで行っているため結果を得るまで時間を要する.処理系の開発によりリアルタイムでの処理が将来可能となれば,一般臨床に加速的に普及していくものと考えられる.