Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

特別プログラム 産婦人科
シンポジウム2 <教育に活かす> 産婦人科救急における知っておいて欲しい超音波所見

(S309)

胎盤の緊急病変

Emergencies in placental disease

谷垣 伸治

Shinji TANIGAKI

杏林大学医学部産科婦人科

Department of Obstetrics and Gynecology, Kyorin University School of Medicine

キーワード :

胎盤病変は,胎児への酸素供給低下や母児の貧血,急速なDICへの進行から,分娩時期を逸しないことが肝要である.しかし胎盤病変の分娩前の診断は,しばしば困難である.また分娩にあたっては,他科との連携や輸血に周到な準備が求められる例もある.あらかじめ危険因子を抽出し,施設に応じた対処を決定しておきたい.本講演は,疾患と所見の列挙ではなく,胎盤観察の要点を解説,診断に到達することを目的とする.
【危険因子と精査対象】
1)母体背景;高齢,不妊治療歴,頻回妊娠,多胎,喫煙,外傷.打撲による胎盤早期剥離(早剥)は,36時間の潜伏期後発症もある.2)既往歴;子宮手術,子宮内操作,早剥既往3)母体疾患と症状;妊娠高血圧症候群,切迫早産,前期破水,絨毛膜羊膜炎,高血圧,抗リン脂質抗体症候群.説明のつかない子宮収縮や性器出血例は精査する.早剥は,切迫早産と誤り易く,嘔気等の消化器症状,心窩部痛を認める例もある.4)胎児異常;子宮内胎児発育遅延,胎児形態異常例(胎児水腫や胎児貧血,羊水過多等).5)胎児心拍モニタリング異常例
【観察ポイント】
1)位置(付着部位);胎盤辺縁の無エコー域が内子宮口を覆う例は突然出血する危険が高く,胎盤中央に内子宮口が位置する例は術中出血量が多い.子宮頸部から胎盤後壁に血管叢と思われる無エコー域を認める例は,さらに出血量が増える.副胎盤例は前置血管に留意する.2)厚さ;正常胎盤の厚みは,妊娠週数mmであり,妊娠週数+10mm以上を肥厚とする.臍帯付着部で胎盤に垂直となるよう描出し,胎盤付着部から絨毛膜板までを垂直に計測する.55mm以上は早剥を疑う.3)辺縁;辺縁静脈洞は,胎盤辺縁の絨毛間腔とされ,同部位の出血や部分剥離を臨床的に辺縁静脈洞破裂と呼ぶ.胎盤辺縁が鈍化や膨隆し,丸みを帯びる(round edge).4)内部エコー;エコーパターンによる予後の推測は困難である.出血間もない血腫は胎盤に比し,高エコーか等エコーである.内部が液状の血腫ではゆっくりと流動する微細な内部エコーを認める.持続的な流動は血腫ではなく,静脈洞等血管である.胎盤内から筋層内に,辺縁不整の低エコー域 (lacuna) を多数有する例は,癒着胎盤の間接評価所見として感度・特異度とも高い.5)胎盤周囲の組織;癒着胎盤の直接評価所見として,胎盤と子宮筋層間の低エコー域 (clear space )の消失,胎盤と子宮筋層の境界の不鮮明像,子宮頸部と膀胱後面筋層間の高エコーの滑らかな線状超音波像 (bladder line) の菲薄化や断裂,胎盤付着部位筋層血流の不連続性がある.5)病変の範囲6)病変の進行速度7)腫瘍性病変の有無
【留意点】
1)胎盤の相対的な位置移動 (placental migration);前置胎盤の診断は,頸管腺領域上端である組織学的内子宮口が羊膜腔下端となる時期すなわち子宮峡部の伸展後が正確である.産婦人科診療ガイドラインは,妊娠31週末までに診断とあるが,児頭下降が観察の妨げになることや,妊娠28週以降に性器出血が増加することから,Pressure Testにて解剖学的内子宮口を開大,子宮下節を展退させ早期に診断を行う.2)子宮筋の局所収縮;子宮下部の局所的な収縮は,内子宮口を誤る.また胎盤と筋層の境界も不鮮明となり胎盤肥厚像と類似する.経時的観察,子宮全体の観察が必要である.3)適度な膀胱充満;過度の膀胱充満は,膀胱が子宮前壁を圧迫,子宮下部の前後壁が近づき,内子宮口を誤る.経腟プローブでの過度の圧迫も同様である.反対に経腹走査法や帝王切開瘢痕部の観察には膀胱充満が必要である.4)経時的観察;血腫の超音波像は,経時的に変化する.内子宮口付近の絨毛膜下血腫が器質化,高エコーとなり前置胎盤と誤ることがある.