Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

特別プログラム 産婦人科
シンポジウム2 <教育に活かす> 産婦人科救急における知っておいて欲しい超音波所見

(S308)

産婦人科救急における知っておいてほしい超音波所見2) 急性腹症・妊娠初期

acute abdomen at gynecology and first trimester

田中 宏和

Hirokazu TANAKA

香川大学医学部周産期学婦人科学

Department of Perinatology and Gynecology, Kagawa University School of Medicine

キーワード :

救急医療の現場において,急性腹症の原因疾患は多岐にわたるが,特に下腹痛を主訴とした女性を対象とした場合に,産婦人科領域の疾患は非常に多く,必ず確認する必要がある.婦人科領域の急性腹症(下腹痛)の原因として代表的なものは,卵巣出血や異所性妊娠に伴う腹腔内出血,卵巣嚢腫・子宮筋腫等の腫瘍性疾患,子宮付属器炎等の炎症性疾患,腟欠損症等の発生異常,その他子宮内膜症や排卵痛等様々な疾患があげられる.これらの疾患の診断において超音波診断法は非常に有用である事は言うまでもない.そこで今回最近当科で経験した症例について超音波所見を中心に提示し,それらを通じて皆さんとともに考えてみたい.
症例①は卵巣嚢腫茎捻転とそれに伴う腹腔内出血の症例である.卵巣嚢腫茎捻転は頻度が多く,救急や外科から紹介される事も比較的多い.超音波所見では典型的な症例はないが,卵巣腫瘍の確認とその部位に一致した圧痛があれば,ほぼ診断可能である.
症例②は骨盤腹膜炎との鑑別が困難であった虫垂炎の症例である.炎症性疾患では,超音波上明らかな腫瘤は確認されない事が多いが,内診所見および血液の炎症所見に加えて,付属器の肥厚・膿腫やダグラス窩への膿性液体の貯留から診断される事がある.
症例③は異所性妊娠の症例である.卵巣嚢腫茎捻転とともに頻度が多い疾患であるが,本人が妊娠を意識していない事もあり,妊娠可能年齢の女性で腹腔内出血を疑う時は必ず妊娠反応を実施すべきである.注意深い超音波検査で付属器の腫瘤が確認される事が多いが,妊娠部位・週数・出血の状況によってはしばしば困難である.手術の適応は,症状とhCGの値によって判断される.
以上からわかるように,超音波検査だけによる診断は困難である.しかし,患者の年齢,月経歴,発症の経緯,疼痛の部位,圧痛の有無,妊娠反応,血液検査(CRP, WBC, Hb)の情報を基にして超音波診断を実施することで,殆どの症例で診断が可能となる.したがって,女性の下腹痛を診察する場合には,救急診療においてもCTやMRIに先んじて実施されるべき検査であろう