Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

特別プログラム 消化器
シンポジウム3 <科学に活かす> 肝脂肪沈着の画像を科学する

(S266)

脂肪肝の基礎:生化学から電顕,光顕,肉眼まで

Pathology of fatty liver:Chemistry, electron & light microscopic and macroscopic findings

中野 雅行

Masayuki NAKANO

大船中央病院病理科

Department of Pathology, Ofuna Chuo Hospital

キーワード :

脂肪肝は最もポピュラーな肝疾患で過栄養(肥満)で生じる一方,栄養不足でも生じる.ではどの様にして脂肪肝が発生するのか病理形態学を中心にお話しします.
肝細胞は種々の代謝を行っていてその一つに脂肪代謝があります.肝細胞へ取り込んだ脂肪酸を滑面小胞体で中性脂肪へ変えてプールします.中性脂肪はミトコンドリアで酸化されてエネルギーに変化します.一方,粗面小胞体で合成された蛋白と結合して分泌顆粒VLDVになりゴルジを介して細胞外へ分泌されます.微量の中性脂肪が肝細胞内に存在するのは生理的状態ですが,軽度の増加は脂肪化と言われさらに増えると脂肪肝と言われる状態になります.脂肪化とは肝の中性脂肪(トリグリセライド,TG)含量が増加(4%という正常値を超えた)している状態です.形態学的には滑面小胞体内の脂肪滴の増加であり微小の段階では認識されませんが,微小滴が癒合してサイズを増しHE染色では空胞として認められるようになります.ズダンⅢ等のいわゆる脂肪染色で染まったものが脂肪滴と認められ,超音波(US)では高エコー画像として認識されます.脂肪代謝の合成,分泌等の障害の結果,脂肪滴が過剰に蓄積した状態が脂肪肝です.その過剰脂肪滴の発生の病理組織所見を説明します.肝細胞の脂肪化は小葉内の中心帯が主ですが,原因によっては中間帯,あるいは辺縁帯に出現します.超音波画像と関連してくるのは脂肪化肝細胞の肝内の局在,分布(びまん性,非びまん性)であります.
肝細胞の脂肪代謝は肝細胞内小器官(滑面小胞体)で行われ脂肪酸から中性脂肪へと変化する.脂肪酸は①腸管から吸収された脂肪酸,②体内の脂肪組織中の中性脂肪が分解されてできる遊離脂肪酸,③肝細胞内でアセチルCoAから合成される脂肪酸がある.吸収・合成の増加あるは酸化の減少で中性脂肪が増加する.あるいは蛋白との結合の障害で細胞外分泌顆粒(VLDL)の合成が障害される.あるいはゴルジからの分泌の障害があると肝細胞内に脂肪滴が貯留・出現する.脂肪滴とは粗面小胞体に中性脂肪が貯留したものである.その変化過程を電顕像で示す,微小滴が癒合してサイズを増し種々の大きさの脂肪滴になる.光顕像での脂肪滴の形態はその見え方で泡沫状,小滴,大滴に分類される.小滴脂肪肝は特にミトコンドリアを含む種々の肝代謝障害と関連する.薬剤性のバルプロ酸ナトリウム,テトラサイクリン,サリチル酸等が知られている.妊娠性急性脂肪肝,Reye症候群,アルコール性泡沫脂肪肝等もこの群に含まれる.通常脂肪化肝細胞では核は脂肪滴に圧迫されて偏在するが,この小滴や泡沫脂肪化では核は中心に位置している.大滴脂肪化は肥満や静脈栄養や代謝性疾患であるクワシオコール等の栄養障害や2型糖尿病,糖源病,Wilson病,高チロシン血症,さらにアルコールや非アルコール性脂肪性肝疾患,コルチコステロイド,アミオダロン,ウイルス感染症等および空腸ー回腸バイパスを代表とする消化管疾患でも発生します.
肝細胞の脂肪化は小葉レベルでは中心帯とかの局在がありますが,肝全体として見た場合は通常びまん性である.しかし脂肪化が不均一であったり,局所的に起こることがあり非びまん性脂肪化である.局所脂肪化(focal fatty change)では高エコー域として不整形あるいは類円形を呈するので,海綿状血管腫や肝細胞癌,転移性癌との鑑別が問題となります.区域性脂肪化(segmental fatty change)は葉あるいは区域に一致して脂肪化をきたすことがある.Focal spared areaとはびまん性脂肪肝で限局的に脂肪化していない場所がありUSで脂肪肝の高エコー内に低エコー部として描出された変化である.