竹田 泰治¹, 中谷 敏², 倉谷 徹³, 溝手 勇⁴, 坂田 泰史¹, 南都 伸介⁴, 澤 芳樹³, 小室 一成¹

Yasuharu TAKEDA¹, Satoshi NAKATNI², Toru KURATANI³, Yasushi MIZOTE⁴, Yaushi SAKATA¹, Shinsuke NANTO⁴, Yoshiki SAWA³, Issei KOMURO¹

¹大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学, ²大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻機能診断科学, ³大阪大学大学院医学系研究科心臓血管外科学, ⁴大阪大学大学院医学系研究科先進心血管治療学

¹Department of Cardiovascular Medicine, Osaka University Graduate School of Medicine, ²Department of Health Sciences, Osaka University Graduate School of Medicine, ³Department of Cardiovascular Surgery, Osaka University Graduate School of Medicine, ⁴Department of Advanced Cardiovascular Therapeutics, Osaka University Graduate School of Medicine

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高齢化社会となり重症大動脈弁狭窄症の症例数は増加し，大動脈弁置換術件数は成人弁膜症手術の中では最も多い．しかし，超高齢，重篤な合併症の存在など，高リスクの症例が少なくない．このような重症大動脈弁狭窄症例に対する治療法として経カテーテル的大動脈弁置換術（Transcatheter Aortic Valve Replacement: TAVR）が開発され，欧米では広く施行されている．現在，本邦でもEdwards社製 Edwards-SAPIEN Valveの臨床治験における良好な短期成績が報告され，Medtronic社製CoreValve の臨床治験も継続されている．TAVR施行にあたり，術前，術中，術後において心エコー検査は大きな役割を果たす．中でも術中における経食道エコー検査はTAVRの合併症をいち早く検出するモニタリングとして重要な役割を果たす．TAVRの合併症には，脳梗塞や房室ブロック等の不整脈，大動脈アクセス部位の障害，不適切な人工弁留置位置，冠動脈開口部閉塞，僧帽弁損傷，人工弁周囲逆流，大動脈弁輪部・根部破裂，人工弁損傷，急性腎不全があげられる．このうち，不整脈以外の心内で起こる合併症は術中の経食道心エコー検査にて検出することができる．人工弁周囲逆流は最も頻度の多い合併症であるが，逆流の程度が生命予後に影響を与えると報告されている．これにより，TAVR施術後の人工弁周囲逆流の多寡がバルーンによる追加拡張を行うか否かを決定することになるため，その評価は非常に重要となる．不適切な人工弁留置位置，冠動脈開口部閉塞，僧帽弁損傷，大動脈弁輪部・根部破裂については，まれであるが，生命にかかわる合併症であり，その場での迅速な対応が要求されるため，いかに早く検出することができるかが重要となる．不適切な人工弁留置位置であれば，著しい人工弁周囲逆流，人工弁の冠動脈開口部閉塞であれば，術前に認めない壁運動異常，僧帽弁損傷であれば，術前以上の僧帽弁逆流，大動脈弁輪部・根部破裂であれば，同部位の形態の変化とともに，心嚢液の貯留・増大，といった所見を認める．この迅速な検出のためには，TAVR施行前に，大動脈弁輪部，大動脈根部の状態，僧帽弁逆流，僧帽弁尖の状態，心嚢液の有無，左室壁運動について評価を行い，術中に変化の有無を観察することが必要となる．以上のように，術中の経食道エコー検査は，TAVR中のモニタリングとして，合併症の検出に非常に重要な役割を果たし，その習熟は施術を安全に行うために必要な条件となる．