Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

特別プログラム 循環器
シンポジウム10 <診療に活かす> 心機能評価に活かす新技術

(S221)

左室壁スペックルトラッキング法による左室充満圧の推定

Application of left ventricular wall speckle tracking for the estimation of left ventricular filling pressure

山田 聡

Satoshi YAMADA

北海道大学大学院医学研究科循環病態内科学

Department of Cardiovascular Medicine, Hokkaido University Graduate School of Medicine

キーワード :

【1】
組織ドプラ指標の問題点
左室弛緩能の推定に,組織ドプラ法(TDI)による拡張早期僧帽弁輪運動速度(e’)が広く用いられている.また,拡張早期左室流入血流速度(E)のe’に対する比(E/e’)は,左室充満圧(平均左房圧)の指標として一般化している.左室充満圧の推定は左心不全による肺うっ血を評価するうえできわめて重要であるが,最近,E/e’は定量性に乏しく,臨床におけるいくつかの場面では充満圧上昇の有無を評価できないことがわかってきた.
【2】
長軸方向のスペックルストレイン(St)およびストレインレート(SR)の応用
超音波入射角度に依存しない2次元スペックルトラッキング法(2D-STI)による長軸方向のグローバル(左室全体の)StおよびSRの応用が試みられている.急速充満期のグローバルSt(StE)とグローバルSR(SRE)から求めたE/StE,E/SREは,E/e’より良好に左室充満圧と相関すると報告されている.さらに,等容弛緩期(IVR)に形成されるSRのピーク(SRIVR)は,e’やSREより強く左室弛緩能と相関し,E/SRIVRにより充満圧をより正確に推定できると報告されている.
【3】
多方向SRの応用
上記の指標は,拡張早期における左室壁の長軸方向への伸展の度合いや速度を表す.しかし,実際には左室壁は長軸と円周の両方向に伸展するので,このうち長軸方向のみを観察して左室全体の拡張機能を推定するのは片手落ちと考えられる.そこで,全国多施設共同研究(SMAP study)を施行し,心尖部3断面と左室短軸3断面を用いて左室壁を満遍なく観察し,多方向への伸展速度をグローバルSRとして計測した.5施設からの70例(正常,狭心症,陳旧性心筋梗塞,拡張型心筋症,肥大型心筋症,高血圧性心疾患)で,左室圧下行脚の時定数(τ)と左室平均拡張期圧(MDP)を計測し,各々弛緩能と左室充満圧のスタンダードとした.3方向各々のSREとτとの相関は疎であり,e’とτとの相関と同程度であった(│r│=0.27-0.3).これに対して,円周方向SRIVRとτとの相関はやや良好であった(r=−0.4).3方向各々のE/SREはMDPと中等度に相関した(│r│=0.43-0.54)のに対して,円周方向のE/SRIVRはMDPと良好に相関し(r=0.59,p<0.001),E/e’とMDPとの相関と比較して統計学的有意に良好であった.以上より,急速充満期よりもIVRのグローバルSRが,長軸や壁厚方向よりも円周方向のグローバルSRが,弛緩能と充満圧の推定に有用である可能性が示された.
【4】
今後の展望と課題
左室壁の伸展は長軸と円周方向に生じるので,心内膜の面積変化速度が左室弛緩能と関連する可能性がある.内膜面積の変化を計測するためには3次元スペックルトラッキング法を応用することが望ましいが,現時点では,3次元エコー法の時間分解能の限界により,急速充満期やIVRの内膜面積変化速度を正確に計測することは困難である.また,これまで述べてきた指標は拡張早期のグローバルSRを用いているが,局所の左室壁が同時に伸展することがよりよい弛緩の達成に結びつくとは限らない.実際に,拡張早期の壁動態は心尖部と心基部でタイミングが異なり,そのことが左室流入血流の有効なsuctionを生み出していると考えられている.したがって,局所壁動態のsequence解析が正確な弛緩能評価に繋がる可能性がある.さらに,このような目的に,従来のように内膜側の壁動態を観察すべきか,心筋中層の動態を観察すべきかについてもわかっていない.以上のような課題がひとつひとつ解決され,将来,心エコー法を用いた左室壁動態解析により弛緩能と充満圧が正確に推定できるようになることを期待する.