Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

特別プログラム 基礎
パネルディスカッション23 <科学に活かす> 心筋の硬さを評価する

(S215)

ヒト心臓壁上を伝播する振動の周波数特性計測による心筋粘弾性推定

In Vivo Viscoelasticity Estimation by Measuring Propagation of Spontaneously Actuated Pulsive Vibration in Human Heart Wall

金井 浩

Hiroshi KANAI

東北大学大学院工学研究科・電子工学専攻

Dept of Electronic Engineering, Tohoku University

キーワード :

【目的】
心筋の粘弾性は,心臓壁特性を評価する上で重要であるにも関わらず,従来,非侵襲的に計測することができなかった.大動脈弁閉鎖時にパルス状振動が心室中隔壁上を伝播する.この生理現象を超音波で計測し,心筋の機械的特性を推定する.
【心筋粘弾性計測の原理】
我々は,超音波を用いて,拍動によって大きく動いている心臓壁上の振幅数十ミクロン以下の微小運動速度波形を百Hzまでの帯域にわたり高精度に計測する手法を開発した.さらに超音波ビームを約16方向に限定して送信すること[1]により,Pulse Repetition Frequencyを数百Hz以上に保つことができ,位相差トラッキング法[2]によって,左心室の数百点における微小運動を「速度波形」として高精度に,同時に計測できる.その各々の速度波形にフーリエ変換施し,特定の周波数の位相値を数百点で求め,カラーコードによってカラー断層画像を生成した.速度波形の時間変化に対応し,このカラー断層画像を約2ms間隔で求めて表示することで,パルス状の振動が心室中隔壁に沿って伝播する様子を画像化することができる(長軸像,短軸像,心尖像).さらに100Hzまでの周波数帯域において各々の特定周波数成分の位相を求め,パルス波の瞬時の位相速度の周波数分散性を決定できる.この周波数分散性を,血液に浸った粘弾性板内の板波(ラム波)の波動伝播モデルと整合させ,Voigtモデルを仮定し,位相速度の理論値を計測値に整合して心室中隔壁の粘弾性定数を決定する[3].
【in vivo実験結果】
健常者に適用し,大動脈弁閉鎖時にパルス状振動が心室中隔壁を伝播する様子が明確に得られた.60Hz 成分に関して,大動脈弁閉鎖時刻の前後20msにおいて,位相速度は,5 m/sから3 m/sへ減少し,得られたずり弾性定数は,24〜30 kPaでほぼ一定であったが,ずり粘性定数は,400 Pa・sから70 Pa・sに減少していた.これらの特性は,健常者5名に関してほぼ同様な傾向があった.これは左室内圧の急激な減少と対応すると考えられる.また同様な周波数におけるin vitro実験による文献値とほぼ一致している[3].
【結論】
本報告では,大動脈弁閉鎖時にパルス状振動が心室中隔壁上を伝播するという心筋の生理現象に注目し,非侵襲に粘弾性率を計測する手法を提案し実験結果を示した.この手法は,内圧計測なしに,対象の粘弾性を推定できる点で優れている.また,超音波の力で加振させた場合には,その伝播の計測・解析に対応できる.さらに,本計測法は,大動脈弁閉鎖時に発生する機械的振動だけではなく,心電図Q波付近で心筋の収縮が開始する極初期の心筋の厚み変化の検出にも応用することができる[4, 5].
【参考文献】
[1]H. Kanai and Y. Koiwa, Ultrasound in Med & Biology, 2001;27:481.
[2]H. Kanai, et al., IEEE Trans. on UFFC., 1997;44:752.
[3]H. Kanai, IEEE Trans. on UFFC., 2005;51:1931.
[4]H. Kanai, Ultrasound in Med & Biology, 2009;35:936.
[5]H. Kanai, and M. Tanaka, Japanese J. of Applied Physics, 2011;50: 07HA01-1.