Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

特別プログラム 基礎
シンポジウム13 <治療に活かす> 超音波による骨評価:臨床と基礎から

(S206)

骨超音波検査QUSの基礎と原理

Basis and principle of ultrasonic bone characterization (QUS)

大谷 隆彦

Takahiko OTANI

同志社大学超音波エレクトロニクス・応用計測研究室

Laboratory of Ultrasonic Electronics, Doshisha University

キーワード :

【はじめに】
現在,広く利用されている超音波診断装置はパルスエコー法による画像診断とドップラー法による血流や弁の動きを計測する装置である.他方,骨超音波検査は海綿骨を多く含む部位(主として踵骨)の超音波透過波の音速と減衰量を測定して骨密度または骨量を評価する方法である.測定値はSOS値,BUA値である.
【超音波伝搬速度(Speed of sound, SOS)】
海綿骨を多く含む部位(踵骨など)を透過する超音波の伝搬速度(音速)は
SOS=伝搬距離[m]/伝搬時間[s]  [m/s]
で与えられる.骨密度が高い程,SOS値は大きな値となる.
【超音波減衰係数(Broadband ultrasound attenuation, BUA)】
骨検査では通常0.1〜1MHz程度の広帯域周波数成分をもつ短いパルス状超音波を送波し,踵骨の透過波を受波し,その各周波数成分の振幅(スペクトル)ABf)を求め,次に標準媒質(水)の透過波の各周波数成分の振幅AWf)を求める.両スペクトルの比ABf)/AWf)は送波器,受波器の応答を含まない踵骨部位の超音波減衰量となる.この振幅比をdB(デシベル)表示し,周波数も対数表示すると0.1〜1MHzの周波数範囲では減衰量は周波数に比例して直線的に増加し,その「傾き」は骨密度に比例する.
BUA=20log10(ABf)/AWf))=mf [dB/MHz]
この「傾きm」をBUA[dB/MHz]と呼びSOS同様に骨密度の評価に用いる.
【QUS法】
この様に骨超音波検査法は骨密度[mg/cm3]を直接表示せずにSOS値,BUA値で数値化する方法である.これをQUS法(Quantitative ultrasound)と言う.SOS値,BUA値の両者ともX線法(DXA法,QCT法)で測定した値とは良好な相関値が得られている.
【QUS法の問題点】
1980年代にBUA,SOSに関する研究が進み,1990年代に種々のQUS機器が,規格の標準化を検討されないまま開発,実用化が進んだ.送波器,受波器の共振特性とその音場特性,測定部位の詳細,伝搬距離の定義,伝搬時間の定義などはQUS装置毎に異なり,各機種間の相関係数は高値であるが表示されるSOS値,BUA値は機種毎にかなりの相異がある.QUS装置はX線被曝が無く,信頼性も良好なため若年者と女性の繰返し測定や経時変化の追跡に適し,また軽量な装置のため健康診断にも適している.また生活習慣病のように年齢や地域が広範囲に及ぶ縦断的または横断的研究にQUS装置が適しているが,機種間に測定値の互換性の無い点が問題となっていた.この問題を解決するため日本骨粗鬆症学会では2007年にQUS標準化委員会を設け,QUS測定値の標準化の検討を重ね,現在,国内で用いられているQUS装置について標準化QUS値(s-SOS値およびs-BUA値)に換算する換算式を示しているこの換算式を用いると従来の各装置の測定値も全てs-SOSまたはs-BUA値に換算可能となった.
【QUSの可能性】
現在,骨折リスクの評価において骨の破壊強度に関係する要素を「骨質」と考えられている.非破壊で測定可能な力学的強度に関係する要素は弾性定数で,これを測定できるのは弾性波動(超音波)である.現在,皮質骨の弾性定数や骨強度の評価技術についての研究が国内外で進行中である.更に海綿骨部位の弾性定数[MPa]やQCT測定値と互換性のある骨密度[mg/cm3]を測定できるQUS装置が実現しQUSの可能性が広がりつつある.