Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

特別プログラム 基礎
シンポジウム8 <科学に活かす> 組織の弾性と粘性:基礎と臨床応用

(S198)

組織の粘性と弾性:基礎からのover view

Viscoelasticity of biological tissue: basic overview

椎名 毅

Tsuyoshi SHIINA

京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻

Human Health Sciences, Graduate School of Medicine, Kyoto University

キーワード :

【緒言】
組織の弾性を計測し,画像化するエラストグラフィが実用化したことにより,乳がん診断をはじめ,動脈硬化,慢性肝炎での線維化など,組織弾性の変化を伴う疾患の早期診断や鑑別診断への応用が,広がりつつある.一方で,媒質の力学的特性は,弾性とともに粘性も重要な要素となる.生体組織も同様であり,組織病変が粘性に反映されるような疾患については,弾性と同時に粘性を評価することで,新たな診断情報を得ることにつながり,診断精度が向上する可能性がある.また,超音波の伝搬や組織変形には弾性だけではなく粘性も関与するので,正確に弾性を求めるには粘性の影響を考慮する必要があるが,現在のエラストグラフィでは,弾性と粘性を明確に分離していないと言える.ここでは,超音波による弾性と粘性の違いと,それらを分離して評価する場合の手法について概説してみたい.
【弾性と粘性】
これらは,ともに応力とそれを加えた場合の歪みとの関係で捉えることができるが,応力の変化幅が小さく線形性が成り立つと仮定する.このとき,純粋な弾性と粘性はそれぞれ以下の性質を持つ.①弾性:応力とひずみは比例し,その比例係数が弾性率.応力の変化とひずみ変化では時間遅れはなく,応力の変化速度に依存しない.応力を除去すれば,変形はなくなり初期形状にもどる.②粘性:応力の変化する速度に比例し,その比例係数が粘性率.応力の変化に対しひずみは時間遅れを生じる.応力を除去しても変形は残る.実際の組織は,弾性と粘性が同時に存在する粘弾性を示すため複雑である.上記の性質から,応力の変化が,極めて緩やかな場合は粘性の項は小さいので,エラストグラフィでも,用手的に行うstatic elastographyでは粘性は無視できる.これに対し,剪断波を発生させるshear wave elastographyでは,100Hz以上の高い周波数成分を含んでいるので,粘性の影響が無視できない.
【計測法】
粘性の分だけ,静的な変形よりも,見かけ上弾性が増加し硬く捉えられるので,shear waveの速度の周波数スペクトルを求め,Voigtモデルを仮定して曲線をフィットさせることで,弾性と粘性を求める方法が用いられる.一方,Voigt モデル等を仮定せず,より一般的に粘弾性を記述する方法として,機械的な材料試験器による測定で用いる,貯蔵弾性率と損失弾性率がある.これは,応力を正弦波的に与え,応力とひずみの振幅比と位相差を用いて,複素弾性率を定義し,その実部が貯蔵弾性率,虚部を損失弾性率とするものである.我々はこの考えを適用し,特性の既知なカプラを用いて,組織の粘弾性分布の画増化を試みた[1].
【組織の粘性】
実際の組織の粘性がどの程度あるかについては,まだ十分なデータが得られていないが,Deffieuxらは,上腕筋のshear waveの速度を計測した結果100〜400Hzでは,線維に直交する方向では明確な速度分散があり粘性が顕著になるが,線維に沿った方向では粘性を示さないことや,肝組織で明確な粘性を示すことを報告している[2].
【結語】
今度,乳がんや慢性肝疾患などの病態と粘弾性との関係を詳細に調べる必要があるが,近い将来,エラストグラフィの発展形として,弾性と粘性の双方を同時に画像化できるビスコエラストグラフィ技術が,実用化することを期待したい.
【参考文献】
[1]T. Deffieux et al. IEEE Trans. Medical Imaging, 2009.
[2]山川,椎名,日超医第85回学術集会講演抄録集,S320, 2012.