馬場 一憲

Kazunori BABA

埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センター母体胎児部門

Center for Maternal, Fetal and Neonatal Medicine, Division of Maternal and Fetal Medicine, Saitama Medical Center, Saitama Medical University

キーワード :

【はじめに】
胎児が超音波3次元像（静止画）として初めて描出された1986年から四半世紀が経ち，3次元像を動画としてリアルタイムに観察することができる3次元超音波診断装置が，一般の産婦人科臨床現場でも使用される時代になった．
【産科領域】
胎児は輝度が大きく異なる羊水で囲まれているため，出生後の新生児を目の当たりに見るような3次元像を比較的容易に表示することできる．このことは，子宮内の胎児を見たいという妊婦や家族の要望と合致し，現状では胎児の3次元像を見せる目的で使用されているケースも少なくないが，我国の産婦人科に3次元超音波診断装置を急速に普及させた原動力にもなったと考えられる．胎児診断に精通すれば，ほとんどの形態異常は超音波断層法で診断することができるが，顔や四肢の異常など，3次元像でないと診断が困難なケースや，3次元像によって診断が容易になるケースも多数存在する．たとえば，18トリソミーなどの染色体異常児に見られる耳介低位は目の高さと耳の位置を比べる必要があるが，断層法での診断は困難である．3次元像構築法を選択することによって，骨格の3次元像や液体貯留部分の3次元像を表示することができ，骨格の異常や内臓の異常の診断にも役立っている．検査時の胎児の位置や向きが悪く，超音波断層法では観察したい断面や計測に適した断面を描出できずに診断を完結できないこともあるが，3次元超音波の任意断面構築の機能を用いれば，必要な断面を常に描出することができる．たとえば，脳梁欠損の症例では，検査時の胎児の向きによらず，直交3断面で確認しながら脳の正中の矢状断面を描出して，容易に診断することができるようになる．3次元超音波では，3次元データセットさえあれば，後から，あるいは別の場所で任意の断面を観察したり，任意の3次元像を構築したりすることができるため，特に胎児診断に精通していない検査者にとって診断が難しいとされる心臓の形態異常では，遠隔診断が試みられている．画像認識技術が進歩すれば，将来，胎児自動計測や胎児形態異常の自動診断もできるようになり，出生前診断の効率化や見落としの減少につながるものと期待される．
【婦人科領域】
輝度の高い胎児は，輝度の低い羊水に囲まれているため，比較的容易に3次元像を得ることができるが，婦人科領域で扱う子宮・卵巣・卵管は周囲を輝度の差が少ない腸などに囲まれているため，産科領域ほど3次元像の利用は進んでいない．しかし，子宮の先天性形態異常や子宮内異物（避妊器具など）の診断を正確に，かつ格段に容易にする子宮の前額断面は，3次元超音波でないと得ることが難しい．不妊治療において受精卵を子宮内に戻す際，子宮腔内でのカテーテルの先端位置が重要となるが，3次元超音波では，リアルタイムにカテーテルの先端位置を確認することができる．子宮内に生理食塩水を注入するソノヒステログラフィーを併用すれば，子宮内の病変を3次元的に描出することができる．また，超音波ドプラ法を併用すると，血流の3次元像を表示することができ，血流（血管）の走行から腫瘍の発生部位が明瞭に示される場合がある．輪郭抽出が手動，または半自動であるため少し煩雑になるが，腫瘍の体積を計測することによって，腫瘍の経時変化や治療効果を判断することができる．
【結語】
3次元超音波は，超音波断層法のように単にプローブを当てればそれなりの画像が得られるというものではなく，どのような症例にどのような機能や表示法を用いるかの工夫が必要だが，産科と婦人科，いずれの領域においても必要不可欠なツールになりつつある．