英文誌(2004-)
特別プログラム 領域横断
パネルディスカッション5 <治療に活かす> 3Dエコーをいかに活用するか
(S179)
肝疾患診断における三次元超音波の有用性
3D ultrasonography for liver diseases
丸山 紀史
Hitoshi MARUYAMA
千葉大学医学部附属病院消化器内科
Department of Gastroenterology, Chiba University Graduate School of Medicine
キーワード :
【目的】
デジタル技術の向上により,超音波での映像手法は飛躍的に進歩した.とくに三次元映像(3D)に関わる変化は著しく,従来の診断プロセスや手法を大幅に変える可能性がある.本発表では,3D超音波による肝疾患診断の現状や将来性,課題について報告する.(1)肝腫瘍の鑑別診断:3D造影超音波による40mm未満の小肝腫瘤31病巣での検討では(Ohto M, et al. J Ultrasound Med 2005),network patternあるいはring patternが肝細胞癌における特徴的所見として観察された.また転移性肝癌では融合する結節間を走行する血管を示すThreading pattern,血管腫では辺縁における限局性造影であるMarginal knot patternが,同様に特徴的な造影所見として認められた.これらは,20mm以下の小腫瘤においても良好に観察され,鑑別に役立つものと思われた.以上の成績は,任意の断面の映像化によって内部構造や血流情報を詳細に観察した結果であり,3D映像の特性による効果である.(2)びまん性肝疾患の診断:1.肝硬変の診断:肝硬変を正しく診断することは肝疾患の診療上極めて重要である.肝表面の凹凸不整像は肝硬変の診断に有用であるが,腹腔鏡は侵襲性の点から適用に問題がある.ここで「Fly Thru (東芝)」は,表面構造を離れた視点から観察可能な新たな表示法であり,腹水を介して肝表面性状を映像化できものと推測される.腹水を有する31症例(非硬変肝10,肝硬変21)での検討では74% (23/31)において肝表面像の映像化が可能であった.可否は腹水の量に依存しており,肝表面に10mm以上の腹水を有する例では全例で映像化可能であった.肝硬変では不整な凹凸像が明瞭に映像化され,非硬変例における比較的平滑な所見と区別された.盲検読影にて,2DとFly Thruの組み合わせは,2D単独に比べて肝硬変診断における感度と正診度を有意に向上させた.また読影者間での一致率はκ=1.0と極めて良好で,客観性に優れることも示された.今後,映像処理技術の改善によって,本法が腹水を必要条件としない映像法に発展することが期待される.また慢性肝疾患の段階的進展という視点から,慢性肝炎の診断における本映像法の有用性の検討が,今後の重要な課題である.2.門脈圧亢進症の鑑別:特発性門脈圧亢進症(IPH)は,肝癌の発現が稀で予後良好であり,肝硬変とは異なった臨床像を呈する.IPHと肝硬変の鑑別には肝静脈カテーテル検査や肝組織所見が有用とされているが,これらは侵襲性の高い手技である.そこで今回,両疾患で異なると報告されている肝内門脈所見に注目し,3D造影超音波での映像化と両者の鑑別を試みた.経皮経肝門脈造影(PTP)が行われた16例(肝硬変11,IPH5)での二名の盲検読影者による検討では,肝硬変/IPHの診断に対するROC曲線下面積は,PTPでは0.9/1.0,3D造影超音波では0.96/0.97と同等であった.また,PTPと3D造影超音波間での診断一致率や読影者間での判定一致率もKappa>0.7と良好であった.このように3D造影超音波は,肝内門脈枝の描出によるIPHと肝硬変の鑑別において,血管造影に代わる検査法として有用と思われた.
【結論】
3D超音波の実臨床での応用は大きく二つに分けられる,すなわち任意の断面の映像化で内部構造や血流情報を詳細に観察するという側面と,立体像を描写し実像の再現によって診断を展開する手法である.いずれも,2D像からは得ることのできない情報を元にした診断学であり,侵襲的な検査を省略できる効果を有する.今後のさらなる進化が期待される.