Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

特別プログラム 領域横断
シンポジウム21 <科学に活かす> Shear wave imaging の現状と将来

(S176)

音響放射力インパルスの生体への影響

Bioeffects of Acoustic Radiation Force Impulse

新田 尚隆1, 工藤 信樹2, 秋山 いわき3, 谷口 信行4

Naotaka NITTA1, Nobuki KUDO2, Iwaki AKIYAMA3, Nobuyuki TANIGUCHI4

1独立行政法人産業技術総合研究所ヒューマンライフテクノロジー研究部門, 2北海道大学大学院情報科学研究科人間情報工学研究室, 3同志社大学生命医科学部医情報学科, 4自治医科大学臨床検査医学

1Human Technology Research Institute, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST), 2Laboratory of Biomedical Engineering, Graduate School of Information Science and Technology, Hokkaido University, 3Doshisha University, Faculty of Life and Medical Sciences, 4Department of Clinical Laboratory Medicine, Jichi Medical University

キーワード :

【目的】
組織弾性の測定及び可視化のために,音響放射力(Acoustic Radiation Force, ARF)を利用して軟部組織内に微小変位やせん断波を発生させ,その変位量や伝搬速度を超音波で測定することにより組織の硬さを測定する技術が注目され,一部実用に供されている.一方,このARF技術は,従来の超音波診断装置とは異なり,持続時間が長い高音圧パルスを用いており,本会機器及び安全に関する委員会は,従来の超音波診断装置に比べて超音波持続時間内での熱発生が大きいと指摘している[1].またHerman-Harrisらは,超音波の焦点に骨が存在する場合,超音波診断装置の規制値以内でも顕著な温度上昇が生じる可能性を指摘している[2].このように,超音波診断における音響放射力の使用においては,その生体への影響が注目されてきているが,どの程度生体作用が増強されるかについてはまだ明らかにされていない.本稿では,音響放射力の生体への影響を評価する一連の取り組みについて,温度上昇の評価を中心に紹介する.
【方法】
温度上昇評価のために,超音波照射部,温度測定部からなる超音波照射下温度測定システムを構築した.超音波照射部では,ARFI装置の音響出力を模擬するための集束型超音波振動子(2.5MHz, F#=2)を製作した.この超音波振動子には熱電対挿入用の貫通穴が開けられており,超音波焦点と熱電対測温接点との位置決めが容易な構造となっている.超音波振動子はパルスジェネレーター及びパワーアンプを用いて駆動する.パルス持続時間(0.3 - 10 ms),音圧,PRT,送波回数等を所望値に設定して超音波照射が行われる.温度測定部では,ARFI装置に用いられているパルス照射期間(数百μs)内の温度上昇を計測可能とすべく,超低雑音プリアンプを用いた高感度化,高速サンプリングを目指した.ガイドを用いて細径熱電対(φ0.15mm)を測定対象内に挿入し,超音波焦点と測温接点との位置合わせを行って,基準接点側の端子を基準接点補償器に接続する.その出力を超低雑音プリアンプで増幅し,ADC(500 kS/s, 16bit)にて記録する.記録した熱電対の起電力は,JIS熱起電力表に基づき,プリアンプの増幅率を考慮して温度に変換する.
【結果】
TMMを用いて温度上昇の評価を行った.TMMはIEC60601-2-37準拠で製作し,骨を含まないモデル(Model A)と骨を含むモデル(Model B)を準備した.Model Aは円柱体であり,その底面に吸音板を配置したものである.Model Bは,上記吸音板を骨モデルとして,Model Aの焦点位置に埋め込んだものである.超音波焦点での温度上昇を計測した結果,超音波照射期間での温度上昇と非照射期間での温度降下を繰り返しながら,送波回数の増加に伴い,ピーク温度は徐々に上昇した.また最大温度上昇は,パルス平均強度と比例関係を示した.一方,PRTを長くすると最大温度上昇は抑制された.Model Bでの最大温度上昇はModel Aよりも大きく,骨表面付近での温度上昇の増強を示唆した.
【結論】
温度上昇の評価例について述べた.生体への影響調査では,超音波照射条件や温度上昇と組織学的所見等との対比も重要である.そのため,本研究で構築したシステムを活用しながら,動物実験を進めてゆく必要がある.
【参考文献】
1)http://www.jsum.or.jp/committee/m_and_s/acoustic_radiation.html
2)Herman BA, Harris GR: Ultrasound in Medicine & Biology 2002; 28: 1217-24.