英文誌(2004-)
特別プログラム 領域横断
シンポジウム16 <診療に活かす> 健診・検診編:指導者が教えるここだけは見てほしいポイント
(S165)
経過観察で良い病変(複雑嚢胞,血管筋脂肪腫)と精査が必要な腫瘍(腎癌)との鑑別
The differentitation of follow-up tumors (complicated cyst , angiomyolipoma) and tumors that require scrutiny (renal cell carcinoma)
宇治橋 善勝1, 中西 久幸1, 槙田 喜之1, 鈴木 政子1, 棟方 伸一1, 狩野 有作2
Yoshikatsu UJIHASHI1, Hisayuki NAKANISHI1, Yoshiyuki MAKITA1, Masako SUZUKI1, Shinichi MUNEKATA1, Yuhsaku KANOH2
1北里大学病院臨床検査部, 2北里大学医学部臨床検査診断学
1Department of Clinical Laboratory, Kitasato University Hospital, 2Department of Laboratory Medicne, Kitasato University School of Medicine
キーワード :
【はじめに】
近年,検診や人間ドックの普及により偶然的に発見される腎腫瘤が増加している.実際,検診における腎癌の発見率(約0.04〜0.1%)は,他の悪性腫瘍と比較して高い傾向にあり,腎癌診療ガイドライン(2011年版)においても,腎癌の早期発見に対する超音波検査の有効性が示され,推奨グレードBとされている.腎癌の画像診断に関しては,腎癌取扱い規約(第4版)では「組織型ごとの画像診断」「Bosniak分類」「血管筋脂肪腫の画像所見」の3項目が追加された.さらに,本学会泌尿器診断基準小委員会から「腎細胞癌と他の腎腫瘤性病変の鑑別」(案)が示され,超音波検査による鑑別診断の一助となっている.このような背景から,超音波検診における経過観察で良い病変と精査が必要な腎腫瘤の鑑別ポイントについて述べる.
【嚢胞性腫瘤と充実性腫瘤の鑑別】
超音波検査で腎腫瘤が発見された場合は,腫瘤が嚢胞性か充実性なのか判別をすることからはじめる.充実性腫瘤の場合には,腎癌と腎血管筋脂肪腫(以下,AML)との鑑別が必要で,特に小腫瘤では,高エコー腫瘤を呈する腎癌とAMLとの鑑別が重要となる.他方,嚢胞性腫瘤の場合では,複雑性嚢胞と嚢胞性腎細胞癌との鑑別が重要となる.
【高エコーを呈する充実性腫瘤の鑑別】
高エコーの充実性腫瘤を認めた場合には,内部輝度や腫瘤内部の血流所見が重要となる.典型的なAMLの超音波像は,含有する脂肪成分により腫瘤のエコー輝度がcentral echo complex(以下,CEC)と比べ高エコーになることが多い.さらに,辺縁低エコー帯(偽被膜)の欠如,境界不整,深部エコーの減弱などの所見を呈する.この他に,カラードプラ法による血流の多寡から,典型的なAMLと腎癌との鑑別はある程度可能とされている.しかし,3cm以下の腎癌では,50〜54%で高エコーを呈することが報告されている.さらに,脂肪が少ないAMLや大きなAMLでは,内部エコーが混在〜低エコーを示す症例があり,内部輝度の所見のみから両者を鑑別することは不可能であると考えられる.したがって,腎癌診療ガイドラインでは腎臓に充実性腫瘤を認めた場合は,CTによる確定診断を実施することが推奨されている.他方,小腎癌では,偽被膜や腫瘤内嚢胞構造の頻度が高いことが報告されており,これらの所見を手掛かりに典型的なAMLの超音波像を呈する小腫瘤でも,超音波検査により慎重に経過観察を行い,腫瘤径増大,血流所見の変化,内部性状に変化などがあった場合には,精密検査を実施することが可能ではないかと思われる.
【複雑性嚢胞の鑑別】
嚢胞性腫瘤を認めた場合には,CT検査によるBosniak分類が良・悪性の鑑別に有用されている.超音波検査においても嚢胞壁の肥厚,嚢胞内隔壁,辺縁不整,嚢胞内腫瘤,石灰化などを観察し,単純性嚢胞(カテゴリーⅠ)や薄い隔壁を伴う嚢胞(カテゴリーⅡ)では,経過観察が可能と考えられる.しかし,カテゴリーⅡF〜Ⅳでは悪性病変の可能性もあるので精査が必要である.また,カラードプラ法の所見に関しては,充実部や肥厚した隔壁に一致して豊富な血流シグナルが検出された場合に,嚢胞性腎細胞癌を鑑別する必要があり精査を要する.確かにカラードプラ法による血流所見は重要であるが,血流検出感度の問題もあり,必ずしも高い正診率を有しているとは言い難い.したがって,確定診断には造影CT検査が必須とされている.しかし,近年,複雑性腎嚢胞の評価に関して,造影CT検査よりも造影超音波の方が有用であったとの報告もあり,今後の造影超音波検査の発展に期待したい.