Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

特別プログラム 領域横断
シンポジウム11 <診療に活かす> ER編:指導医が教えるここだけは見てほしいポイント

(S158)

急性冠症候群の心エコー:ここだけは見逃すな

Essential echocardiography for diagnosis of acute coronary sundrome

岩倉 克臣

Katsuomi IWAKURA

桜橋渡辺病院循環器内科

Division of cardiology, Sakurabashi Watanabe Hospital

キーワード :

虚血性心疾患のエコー図診断の基本は壁運動の異常である.急性冠症候群はST上昇型心筋梗塞,ST非上昇型心筋梗塞,不安定狭心症を含み,虚血の状態にも幅がある.不安定狭心症では壁運動異常がない場合も多く,壁運動異常がないことは急性冠症候群を否定するものではない.局所壁運動異常がある場合とない場合に分け,見逃してはいけない心エコーのポイントについてまとめる.
【局所壁運動異常が認められる場合】
(1)壁運動異常の分布急性冠症候群を疑われる症例で局所壁運動を認める場合,その壁運動の分布が冠動脈の支配に一致しているかを確認することが大切である.そのためには壁運動異常の有無のみではなく,その範囲を把握し17分画モデルなどで示されるような冠動脈支配に一致した分布であるかを確認する.明らかに冠動脈支配に一致しない場合は急性冠症候群以外の可能性も考える.注意すべき点は冠動脈病変は一枝に限らないことである.心エコー前の情報から急性冠症候群の可能性が高い場合,予測される領域以外にも壁運動異常があるかは必ず確認しなければいけない.心電図では多枝病変の予測は困難であり,心エコーで初めて示唆されることもしばしばある.広範囲の壁運動異常は必ず急性冠症候群を否定するものではなく,多枝病変の可能性があるかを冠動脈の走行から考える.絶対に見逃してはいけないのが左主幹部梗塞である.ショックを呈する症例で左前下行枝領域と左回旋枝領域に連続した壁運動異常がある場合,左主幹部梗塞の可能性を考えて迅速に対応する.
(2)左室心機能・左室径 左室機能は治療方針決定にも重要であるので,目視法での推定でも良いので左室収縮率(EF)の見積もりをしておく.初回梗塞例では左室拡大が見られることはないので,左室径の拡大がある例は以前に梗塞の既往がある可能性を考える.なお壁運動異常領域で壁厚が著明に低下している場合も,梗塞の既往が考えられる.
(3)機械的合併症 急性心不全,ショックなどを伴う場合はその原因についても検索する.その場合に機械的合併症の可能性も考える必要がある.機械的合併症はいずれも心破裂によるものであり,その部位から次のような形で出現する.
(i)自由壁破裂:心嚢液貯留で診断されるが,その量は必ずしも多量でない.臨床経過は早く,急速に不幸な転機を辿ることも少なくない.
(ii)心室中隔穿孔ドプラエコーでの左→右シャントにより診断される.右室拡大,中隔の圧排・奇異性運動などの右室負荷所見の出現も診断の手掛かりとなる.心尖部寄りの中隔に発症することも多く,同部位のドプラでの検索が必要である.
(iii)乳頭筋断裂中等度以上の僧帽弁閉鎖不全が出現し,弁尖のムチ様の動き(frail valve)や弁尖での乳頭筋断端の付着なども認める.急激な心不全の増悪を認め,時にはショックに陥ることもある.ショックの原因としては広範囲前壁梗塞とならんで左主幹部梗塞を見逃してならない.下壁梗塞例では右室梗塞もショックの原因となる.右室の壁運動を傍胸骨左縁短軸像などで評価する.
【壁運動異常のない場合】
胸痛が持続している時に実施した心エコー検査で壁運動異常が全く認められない場合は急性冠症候群の可能性は低く,解離性大動脈瘤や肺血栓塞栓症などの可能性も考える必要がある.胸痛が消失した後も壁運動異常が残存した場合は急性冠症候群は否定できず,高度狭窄の可能性もある.壁運動の持続は心筋虚血の継続を意味するので,不安定狭心症例でもPCIを考慮する.胸痛が消失し,壁運動異常もない場合は安静時の心エコーのみでは急性冠症候群については否定も肯定もできない.