Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

ポスター
産婦人科:母体

(S562)

パルボウイルスB19感染によりMirror症候群を発症した1例

A case report of mirror syndrome due to parvovirus B19 infection

味村 和哉, 金川 武司, 後安 聡子, 柿ヶ野 藍子, 金山 智子, 藤田 聡子, 谷口 友基子, 冨松 拓治, 木村 正

Kazuya MIMURA, Takeshi KANAGAWA, Satoko GOA, Aiko KAKIGANO, Tomoko KANAYAMA, Satoko FUJITA, Yukiko TANIGUCHI, Takuji TOMIMATSU, Tadashi KIMURA

大阪大学医学部産科婦人科

Obstetrics and Gynecology, Osaka University Graduate School of Medicine

キーワード :

【はじめに】
パルボウイルスは経胎盤的に胎児感染し,胎児の貧血や血小板減少,非免疫性胎児水腫を引き起こす.Mirror症候群とは胎児水腫に伴い,母体の浮腫・乏尿・高血圧などが発症する病態であるが,不明な点も多い.パルボウイルスを原因としている報告も多くみられる.今回,胎児中大脳動脈収縮期最高血流速度(MCA-PSV)を指標に胎児赤血球・血小板輸血を行い,母児ともに救命できた症例を経験したので報告する.
【症例】
31歳,G3P2(CS2),エジプト人.自然妊娠成立後,前医にて妊婦健診施行されていた.2011年6月に児の姉妹がパルボウイルス感染症に罹患したエピソードあり.母体にも軽度の皮疹を認めていた.7/17(21w3d)頃より乏尿・下肢浮腫を認め,体重も7kg増加した.症状軽快せず,胎児水腫認めたため,7/22(22w1d)に当科紹介となり,同日より入院管理を行った.軽度IUGRであったが,明らかな胎児奇形は認めず.胎児腹水と胎盤肥厚が著明であった.MCA-PSVは46.6cm/s(1.67MoM)であり,母体血清のパルボウイルスB19 IgM陽性および,妊娠中のエピソードよりパルボウイルス感染が胎児水腫の原因であると強く疑った.母体は下肢浮腫が高度であり,1日300〜400mlの乏尿を認めた.またHb9.0 g/dL・アルブミン2.4 g/dLと血液希釈傾向であった.呼吸器症状は認めず,胸部レントゲン上も肺水腫や心不全傾向はなかった.また下肢超音波上DVTも検出せず.また母体血清HCG値は516500と異常高値であった.7/25(22w4d)胎児採血施行,Hb4.4 g/dLであったため,子宮内胎児輸血を施行,術後Hb13.4 g/dLとなった.下肢浮腫や乏尿は改善せず,8/1(23w5d)肝機能障害(AST83IU/l; ALT51IU/l)や高尿酸血症(7.9mg/dL)を認め,MCA-PSVも46.8cm/s(1.58 MoM)と依然高値であったため,2回目の胎児輸血施行,術前Hb6.4から16.2g/dLに上昇,また同時に血小板輸血を施行し,術前Plt4300から8400/μlに上昇した.24時間後から浮腫の改善や利尿を少しずつ認め,次第に胎児水腫も改善傾向となり,8/17退院となった.最初のエピソードから30日で母体の臨床症状も血液データも完全に正常化した(尿酸3.9mg/dL, AST21IU/l, ALT13IU/l).HCGも213800(8/5),55940(8/12),20217(8/19)と順調に低下した.その後胎児水腫も劇的に改善し,胎児腹水は26週5日に消失.MCA-PSVも正常範囲で経過した.その後の妊娠経過は著変認めず.胎児発育も増加傾向であった.9/16エジプトに帰国し,11/11(38w2d)3100gの女児を帝王切開にてAp8/10で娩出.神経学的後遺症を含め児に異常を認めていない.
【考察】
今回MCA-PSVを指標に胎児輸血を行い,胎児水腫だけでなくMirror症候群も治療することができた.しかし,パルボウイルスは胎児貧血だけでなく血小板低下も来すことが多いので,最初から血小板輸血の準備もする必要があったと思われる.また,Mirror症候群の症状はPreeclampsiaと似てはいるが,血液希釈を来す点で明らかに異なっており今後の病態解明が待たれる.今回HCGの値は病勢を速やかに反映しており,治療効果の判定に役立つと考えられた.